鍼する左手 灸する右手
中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です
わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!
#23 五臓について(肺)
キュウタロウ : ねぇマツハリ先生、ちょっと気になっていることがあるんだけどさ。
マツハリ先生 : どうしたキュウタロウ君、笑わないから言ってごらんよ。
キュウタロウ : あのさ、人間って寝ているときに息するでしょ?近くにいると寝息って聞こえるんだよね。
マツハリ先生 : そうだね。
キュウタロウ : でもさ、起きている時の息の音って聞こえないと思わない???
マツハリ先生 : これまた、すごいところに気がついたね。
キュウタロウ : えっ?そう?エライ?頭いい?カッコイイ??
マツハリ先生 : カッコイイかどうかは、知らないけれど、その質問は普通の人じゃなかなか気が付かないだろうね。
キュウタロウ : そうか、エライってことね。ねぇねぇ、なんで?理由があるんでしょ??
マツハリ先生 : なんでもかんでも東洋医学で答えが決まっているわけじゃないけれど、その質問にはちゃんと答えがあるんだよ。
キュウタロウ : うわー、こんな適当な質問でも答えがあるんだね~。
マツハリ先生 : なんだよ、キュウタロウ君、適当に言ったの??
キュウタロウ : いや、まじめに質問していいのか悩んじゃっただけ。
マツハリ先生 : よし、では、その答えとやらを説明しなきゃね。事実、キュウタロウ君の言うように夜の呼吸っていうのは活発になる。ただ、これも条件があって、呼吸が活発にはるのは、肺だけなんだ。
キュウタロウ : ちょっ、ちょっと、また僕が体についてよくわかってないからってからかわないでよ。呼吸って肺だけしかしないじゃないかっ。
マツハリ先生 : そこがまた難しいところでさ、人体にはわかっていない点がたくさんあるんだ。そして東洋医学的に考えると、ひとつの臓器はひとつの機能だけとは限らないんだよ。
キュウタロウ : まったく、何回聞いても、よくわからないこと言うなぁ~。
マツハリ先生 : 呼吸って言うと、口から空気を吸うことと、吐くことだと思っていない?そうじゃなくて、空気の交換って定義するとしようか。
キュウタロウ : そんなこと定義したって肺の呼吸が夜に活発になる理由の説明になるの?
マツハリ先生 : まぁまぁ。こういう考え方もあるってことを説明するから。肺呼吸って言葉の他に何か聞いたことはあるかい?
キュウタロウ : エラ呼吸!
マツハリ先生 : おいおいっ、そっちか。人体の話ししているんだから、お魚の話しは忘れてくれよ。いいかい、人体関係でおそらく聞いたことがあるのが、「皮膚呼吸」ってやつさ。
キュウタロウ : あぁ、聞いたことあるある。
マツハリ先生 : その皮膚呼吸するとされる皮膚も、大切な「呼吸の臓器」だって考えるんだよ。臓器の肺だけじゃなくてね。
キュウタロウ : たしか、心臓のときも、心臓という臓器だけじゃなくて、血管も心臓って考えることができるって言っていたものね。
マツハリ先生 : そうなんだよ。肺は右肺と左肺にわかれて二つあるんだけど、そのどちらかひとつを取り除いても人間は生きていけるんだ。
キュウタロウ : すごいね。昔は呼吸の病気で肺を取り除く必要がある人がいたって聞いたことあるなぁ。
マツハリ先生 : でもね、皮膚呼吸に使われる皮膚が全身の三分の一以上火傷とかで失われると生命が危険にさらされてしまうんだよ。
キュウタロウ : 呼吸ができなくなるからなのかな。
マツハリ先生 : 東洋医学ではそう考えるね。それほど皮膚と肺は関係が深いんだよ。
キュウタロウ : なんかさ、東洋医学ってふたつでひとつってヤツが多いね。
マツハリ先生 : そういう感覚がわかってくれば立派だよ。そしてそのふたつは違うけれど同じような役割をしていることが多いのさ。この呼吸だって皮膚呼吸と肺呼吸だよね。この呼吸を外気圧の調整の場所だとすると、体内圧の調整の場所があるって考えるんだ。それが大腸さ。
キュウタロウ : 皮膚と大腸って関係あるの?
マツハリ先生 : あれ?知らない?便秘をすると吹き出物ができるって聞いたことないかな?
キュウタロウ : うっ、聞いたことある。。。
マツハリ先生 : それくらい関係深いんだよ。だいたい、皮膚も腸も皮膚みたいなものじゃないか。
キュウタロウ : どういうこと???
マツハリ先生 : 腸が接しているのは、体の中じゃなくて、体の外だってこと。ちくわの穴の表面っていえばわかるかな?
キュウタロウ : なんか、わかったようなわからないような。
マツハリ先生 : 大腸は水分の吸収をして便のかたさを整え、排泄する働きだけじゃないんだよ。小腸の発熱によって大腸の水分が気発されて肺から取り入れた気と結びついて体内を流れる気を作っているって考えるんだ。
キュウタロウ : 小腸が熱を作っているっていうのは、心臓の説明で聞いた気がする。
マツハリ先生 : 小腸が作った熱のエネルギーを無駄にしないように大腸が外側を取り囲んでいるんだよ。
キュウタロウ : おぉ、人体って無駄がないねぇ。そういう理由でわざわざ小腸から大腸まで一直線じゃなくてぐるっと取り囲んでいるのか~。
マツハリ先生 : それで本題の質問を答えなきゃね。いま言ったことで肺と大腸がペアだということがわかったかな?
キュウタロウ : 体外の気を取り込むのが肺、体内に気を巡らすのが大腸ってことだね。
マツハリ先生 : そうだね。それと次は臓腑のどちらが陰でどちらが陽ですかってこと。
キュウタロウ : 臓が陰だから、この場合は肺が陰になるんでしょ?
マツハリ先生 : そうだね。陰陽でわけたら肺が陰で大腸が陽。
キュウタロウ : これくらいはしっかり覚えたつもりだよ。
マツハリ先生 : それでね、ようやく答えになるけど、肺は陰だから夜に活発になるんだよ。
キュウタロウ : そういうことなのか~。僕は気のせいかと思ったら東洋医学的にみればしっかり理由があったんだね。
マツハリ先生 : それとは別に臓器によって活動的になる時間帯っていうのもあるけれど、ここではそれを考えなくていいと思うよ。
キュウタロウ : 肺も特徴っていうのがあるんでしょ?
マツハリ先生 : 肺は五行でいうと金(きん)に配当されている。金の特徴は収斂(しゅうれん)っていえばいいかな。
キュウタロウ : 収斂ってどういうこと?
マツハリ先生 : 集まるとか、まとまるとか、中心に向かう動きだね。陽から陰への動き、つまり陰遁(いんとん)って呼ばれることなんだよ。
キュウタロウ : 思い出した!心旺(しんおう)の人は笑いが多くって肺旺の人は沈黙が多いってね。
マツハリ先生 : そうだね。肺の力が強くなると心理的にも収斂の力が増える。心理的な収斂、つまり沈黙ってことなんだ。 (#21 五臓について 心 参照)
キュウタロウ : 呼吸も無理やり考えれば空気を集める作業だもんね。大腸だって便を固めて集める作業っていえるし。収斂の作用があちこちにあるわけか。
マツハリ先生 : 無理やりじゃなくても、自然にそう考えられると思うけどな。その共通する現象が金気のせいだってことがわかるでしょ?
キュウタロウ : 他には何かないの?
マツハリ先生 : そうだな、たくさん例はあるんだけれど、まず季節でいったら秋だね。秋は作物が実るよね。これも収斂作用だよ。馬肥ゆる秋っていうんだけど、秋に馬が太るのも金気の収斂作用があるからなんだよ。
キュウタロウ : 季節のほかには?
マツハリ先生 : そうだなぁ、一日で言えば夕方、そして人生で言えば晩年になるかな。
キュウタロウ : なんか、切ない時間帯を想像しちゃう。
マツハリ先生 : 収斂だから、テンションがあがる時間ではないよね。冷静沈着。場合によっては、落ち込むって感じだね。それとね、馬肥ゆる秋って言ったけど、5種類の家畜に分けると金気は馬が配当されているんだよ。牛肥ゆる秋はなくて、馬なんだよね。
キュウタロウ : そういうのがあるのかぁ。
マツハリ先生 : まぁ臓腑に関してたくさん話しているけれど、表を見せれば関連した項目で違いがわかりやすくなるかもね。
キュウタロウ : そういう表っていうのがあるの?
マツハリ先生 : 古典を整理した表で、色体表(しきたいひょう)っていうのがあるんだよ。
キュウタロウ : 鍼灸師なら誰でも知っているの?
マツハリ先生 : まぁ普通は知っているだろうね。国家試験の問題にも出てくるものだから。
キュウタロウ : 鍼灸師の人からあまりその話しを聞いたこと無いんだけど…。
マツハリ先生 : 「知っている」のと「活用している」っていうのはちょっと違うかもね。知っているけど、何のため?どのように使うの?って疑問に思っている鍼灸師も当然いるわけさ。
キュウタロウ : マツハリ先生は鍼灸オタクだから活用しているわけだよね?
マツハリ先生 : それ褒めてないでしょ?オタクじゃなくて歴史と伝統を大切にしているってことなんだよ。当然、愛もあるけど。
キュウタロウ : まぁまぁ遠慮しないで、そこまで言ったらオタクでいいじゃないですか。僕も鍼灸オタクになりたいんだから。
マツハリ先生 : なんか、鍼灸オタクっていうと、東洋医学が好きなんじゃなくてたくさんの鍼灸院を渡り歩いている人みたいだね。
キュウタロウ : いいのいいの!素敵な鍼灸院がたくさん出来ればいいんだから。僕が鍼灸に詳しくなるのも、鍼灸院に詳しくなるのも同じことじゃないか。
マツハリ先生 : 君はいつでもテンション高いな~。中庸のためにはもう少し収斂作用があってもいいと思うけどな。。。
第23話を終えて
呼吸というのはガス交換を行う大切な作業。そして圧力を利用している物理的な作業です。
ですからさまざまな物理現象を活用しており、何が何に影響しているのかなかなか理解するのが難しいかもしれません。
例えば気圧の変化によって体内に取り込む酸素の量に違いが出たり、その違いを出さないように体が頑張るために負荷が増えたり。天気の移ろいはそのまま気圧の変化に直結ですから、そういう意味では天気の変化が体調の変化(負荷)へと直結するわけです。
そのような複雑な変化を代表的な事象として共通項を探ったものが色体表としてまとめられています。実際、鍼灸師の国家試験にも出る問題となります。ただそれを活用できるか、説明できるかというのは鍼灸師個々人の力量にかかっているのでレベルの差のひとつになってしまいます。
深く東洋医学、東洋思想を理解している鍼灸師が増えるといいですね。
マツモト コウイチ
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