五行説の前に

鍼する左手 灸する右手

 

中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です

わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!

#18 五行説の前に

 

キュウタロウ : 今回は五行説について教えてね。
マツハリ先生 : オッケー。五行説っていうのは、おそらくだいぶ昔からあったんだ。

キュウタロウ : そりゃ昔だろうねぇ。
マツハリ先生 : どれだけ昔かはわからない。歴史書に登場するもので中国最古のものに『書経』っていうものがあるんだけど、そこに五行説は登場するんだよね。

キュウタロウ : 陰陽は?
マツハリ先生 : 『河図(かと)』『洛書(らくしょ)』にあるって、『易経』に匂わせてあるんだって。

キュウタロウ : なになに?ぜんっぜんわからない。カト?ラクチョ?匂わせる???
マツハリ先生 : ごめんごめん。簡単に言うと、誰も見たことのない『河図』『洛書』っていう書物があるって、易経の注釈本に書いてあるみたいなんだよ。

キュウタロウ : これまた現実なんだか、空想なんだか、判断しかねるね。
マツハリ先生 : だってしょうがないじゃないか。昔なんだもの。

キュウタロウ : そうだね。五行が書経で、陰陽が易経ね。
マツハリ先生 : 正確に言うと五行は書経の洪範(こうはん)で、陰陽が易経の河図洛書って感じかな。あっ、でも河図洛書は易経じゃないからね。

キュウタロウ : も~!今日はさっぱりわからない。洪範って誰?
マツハリ先生 : いや、誰でもない。書名さ。書経って本のなかの、洪範っていうタイトル。洪範九疇(こうはんきゅうちゅう)が正式名称みたい。

キュウタロウ : うううう。
マツハリ先生 : ちなみに『書経』は『尚書(しょうしょ)』とも言われており、洪範篇において殷(いん)の箕子(きし)が周の武王(ぶおう)へ語るかたちで載せられており、君主が水・火・木・金・土の五行にもとづいて行動し、天下を治めることを説いているんだよ。参考までに殷、周は王朝の名前、箕子、武王は王の名前だよ。

キュウタロウ : 王朝って国じゃないの?
マツハリ先生 : 王朝は国王の家系、国は国家の領土や国民、制度を全部を指すみたいだよ。若干違うね。

キュウタロウ : ねぇ、マツハリ先生、、、五行の話しに辿りつける気がしないんだけど。
マツハリ先生 : あぁ、ごめんごめん。いつも以上に横道にそれてしまったね。修正修正。

キュウタロウ : 気を取り直すのだって大変なんだからねっ
マツハリ先生 : そういうわずに、楽しく勉強しよう。物事を覚えることは辛いことだけど、活用できるようになれたら素晴らしいものなんだから。

キュウタロウ : わかったよ。がんばる、、。
マツハリ先生 : それじゃ行くよ。陰陽五行論っていうのは、最初に話した陰陽論と五行説っていうものが古代中国にあったんだけど、それを春秋戦国時代に諸子百家っていう思想家がたくさんあらわれた時期があって、陰陽家っていうグループのリーダーである鄒衍(すうえん)って人が理論をまとめあげた考え方なんだよ。

キュウタロウ : だいぶ説明がザックリしてきたね。僕のせいならあやまるよ。
マツハリ先生 : ちょっとだけ補足させてもらうと、諸子百家の「子(し)」は先生っていう意味。「家(か)」は思想グループって感じでいいと思う。このころの時代背景の説明は複雑なんだけど、たくさんの考え方で意見を戦わせて、国の知恵袋として雇ってもらうことが学者さんたちの生き残る術だったんだよ。

キュウタロウ : 舌先三寸ってヤツだね。
マツハリ先生 : そのなかに、有名な孔子や老子がいるんだ。孔子は儒家で儒教の祖とされた人だよね。老子は老荘思想で有名だけど、「無為自然」を主張した。墨家の墨子は「兼愛非攻」、孟子は「性善説」、荀子は「性悪説」、法家の韓非子は「法と術(法の運用)」多くの学派のいいとこどりした雑家にはあまり有名な人はいないかもしれないけど『淮南子(えなんじ)』や『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』は有名な書籍だね。

キュウタロウ : いろんな考え方があったんだね。
マツハリ先生 : そのなかで、さっき言った陰陽家の鄒衍が私たち鍼灸師には因縁深いんだよ。

キュウタロウ : 陰陽家が陰陽論と五行説を統合した理論として主張したんだね。
マツハリ先生 : 五行説は古代の王朝の交代する原理を説いたのがそもそもの発祥とされているらしいけどね。

キュウタロウ : なんで、わざわざそんなことを説く必要があるの?
マツハリ先生 : そりゃ、権威付けと言ってもいいかもしれない。強いものが王様になるのであったら、常に争いがあって国が治まらないでしょ?王朝の交代の原理があるってことにすれば、天の命を受けてのことだから仕方が無い、納得するっていうのが、当時の文化だったんだよ。例え無茶な理屈だとしてもね。

キュウタロウ : そういうものなのか。
マツハリ先生 : ただ、それで終わらないのが、古代中国人の理論武装というか、自然観察の賜物というか、すごいところだよね。

キュウタロウ : 鄒衍さんはそれを知っていて持論にしたのかな?
マツハリ先生 : さぁ、そこまでは確信は持てないけど、文化に深く根ざしていたことを思想として活用するのは、間違っていないんじゃないかな。ましてや、その思想が役に立つとなれば、なおさらね。

キュウタロウ : そうだよね。鄒衍さんはどんな点を主張したのかな?
マツハリ先生 : 陰陽は前回説明したものと同じだよ。世界は「陰」と「陽」、「男」と「女」、「天」と「地」のように、2つのものに分かれ、それらがうまく混じりあって万物が「調和」しているのだ、という考えさ。

キュウタロウ : そっか。そしてようやく今回勉強する五行説になるわけだね?
マツハリ先生 : そう。五行説っていうのは5種類の元素(物質)が「互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環する」ってことなんだ。

キュウタロウ : サラっと言うけど、陰陽論と五行説って違うの?
マツハリ先生 : まぁ似ているから一つになれたわけなんだけどね。これまた厳密に言えば別物だけど、同じように考えることができるわけだよ。

キュウタロウ : もう、こういうのが多いからねぇ。東洋医学ってのがわかってきたよ。
マツハリ先生 : ここでは、陰陽論をちょっと置いておいて五行説に注目するね。五行説には5つの元素が必要だったね。

キュウタロウ : うん。その5つってなぁに?
マツハリ先生 : 木(もく)、火(か)、土(ど)、金(こん)、水(すい)の5つだよ。

キュウタロウ : この5つでテンチバンブツとかジュンカンとかって仕組みが説明できるの?
マツハリ先生 : それが、できるんだよね~。

キュウタロウ : もしや五行説って難しいんじゃないの?
マツハリ先生 : そんなことはないって。まずいつものルールってやつを紹介しよう。だいたい3つだからすぐに覚えちゃってほしいな。

キュウタロウ : 3つも?!
マツハリ先生 : まずひとつ目。「相生関係」相生関係っていうのは、相手を助ける関係。相手っていうのは、循環でいう次の性質のこと。親子関係に例えられると子にあたる性質を活性化させる関係なんだよ。このルールでは、親が子を助けるので、どんどんエネルギーを増やす方向に働くからね。

キュウタロウ : ソウセイカンケーね。
マツハリ先生 : 次、ふたつ目。「相剋関係」相剋関係っていうのは、相手を牽制する関係。じゃんけんでは3種類がお互いを牽制しているでしょ?五行説ではそれが5つで牽制しあっているんだよ。じゃんけんを3すくみっていうから、五行説は5すくみの関係だね。相剋関係はお互いを牽制しているから夫婦関係と見ることができるんだ。夫婦は対立しているように見えるけど、対立しているから調和できるんだよ。相手を牽制しているので、どんどんエネルギーを抑える方向に働くんだよ。

キュウタロウ : ソーコクカンケーっと。
マツハリ先生 : 最後にみっつ目。比和関係。比和関係っていうのは、同じ性質が集まることによってその性質の力が強まることを言うんだよ。

キュウタロウ : ヒワカンケーか。
マツハリ先生 : 今日はここまで。それぞれの理由については、次回に説明することにしようか。

キュウタロウ : うん。とにかく相生関係、相剋関係、比和関係の3つは大切なんだね。
マツハリ先生 : 次回は、その意味について説明するからお楽しみに。

 

第18話を終えて

 

陰陽と五行は東洋思想の根幹をなす考え方です。当時はこの陰陽五行によって物事を考えていました。いまでは「科学的」というと一定の信認を得るような感覚でしょうか。

ですから、陰陽五行が正しいか否かということよりも、当時の人はそのような理論構築をしていたということを理解すべきです。(そしてそれが理にかなっている場面が多いことに驚くのですけれど…)

今回は鍼灸というより思想に関する視点なので治療より広い内容になってしまったので難しく感じた人、逆に興味を持った人など様々かもしれませんね。

東洋医学といえども陰陽五行が自在に扱えなかったり、まったく使えないと言う人までいるのです。私は鍼灸師こそ陰陽五行を現代的に自由自在に使いこなせる人であって欲しいと願うのですが治療効果ばかりに目をとらわれていては見えないことが増えるのも仕方がないことかもしれません。

 

 

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マツモト コウイチ

開業22年超の鍼灸師です。