鍼する左手 灸する右手
中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です
わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!
#17 陰陽で病気が違う?
キュウタロウ : 陰陽の区別はなんとなくわかったんだけどさ、治療に関係あるの?
マツハリ先生 : まぁ関係あるから説明したんだけど、現実味がないように感じるかもね。
キュウタロウ : そうなんだよね。ちょっとでいいから関係あるんだよってところを教えてほしいな。
マツハリ先生 : そうだね。陰陽の理解のためにも具体的に説明しようね。
キュウタロウ : お願いしますっ。
マツハリ先生 : 五臓と関係ある証とは別に陰陽の別っていうのがあるんだ。あるというより、そういうように区別できるってこと。
キュウタロウ : 陰陽の別?
マツハリ先生 : そう。便宜的に陽証と陰証っていうことにするよ。どういうことかというと陽の病気のときは、例えば顔を外に向けて横たわる。
キュウタロウ : ふんふん。それじゃ逆に言うと陰の病気は顔を内に向けて横たわるってことだね?
マツハリ先生 : そうだよ。内側、つまり壁側だね。陰証は広い空間ではなく狭い空間を好むんだ。陽証は横たわっても目を開けていたいと言う。
キュウタロウ : へぇ。そうなんだ。陰証は逆に考えるから目を開けていたくないんだよね?
マツハリ先生 : そうだね。目を開けることを嫌がるので暗いままにして欲しいって言うんだ。
キュウタロウ : 陽証と陰証は陰陽の違いから考えれば、わかる気がする。
マツハリ先生 : それじゃ思いあたる点をここに書いておくね。
陽証
顔を外に向けて横たわる。目をあけていたいと言う。人が面会することを喜ぶ。体を仰向けにして手足を伸ばして寝る。横になるけれど身軽でたくさん話す。呼吸が荒くなりやすい。涼しいところが好きで口が乾きやすく、水分を欲しがる。便秘がちであり、手足が温かい等の特徴がある。
陰証
顔を壁側に向けて横たわる。目を開けることを嫌がり暗いままにして欲しいと言う。人と会うことを嫌がる。体が寒く手足にだるさがある。あまりしゃべらず、呼吸も静か。温かい物を欲しがるが、口はそれほど乾かない。大小便はそれほど変化がない。手足は冷えてしまう等の特徴がある。
キュウタロウ : こんなに陰陽にわけることできるのか~
マツハリ先生 : いいかい?これは一例だから、すべてが一致しているわけじゃないよ。
キュウタロウ : うん。でも、だいたい同じような傾向になるんでしょ?
マツハリ先生 : そうだね。陽証は陽証の特徴が多くでるね。陰証は陰証の特徴が多い。だから問診でも活用できるし、さりげなくチェックする項目にも使える。
キュウタロウ : どこを向くとか明るさを嫌がるとか望診で使えるね。
マツハリ先生 : おっ、やるじゃないか。鍼灸師っていうのは、そういう情報を総合力として情報を収集して治療に活かすんだ。
キュウタロウ : ところで、陽証とか陰証って区別はできそうな気がするんだけど、それって何???
マツハリ先生 : おいおいおい、なんだ、わかっているのかと思っていたよ。
キュウタロウ : えへへ。ねぇねぇ教えてよ~。
マツハリ先生 : 陰証っていうのは、陰の病気だよね。ある特定の病気を言っているわけじゃない。
キュウタロウ : そうなの?またまたわかりそうでわからないなぁ。
マツハリ先生 : いいかい?陰証っていうのは、陰の病気だから、例えば慢性病だったり、内臓病だったり、足腰の病気だったり、想像力を発揮させて「陰」ってことで思いつくことすべてって考えていいんだよ。
キュウタロウ : ふ~ん。
マツハリ先生 : 慢性と急性では陰は慢性だよね。病気の歴史があるほうが陰って考えるからね。手足と内臓なら内臓が陰。中心を陰って考えるからね。足腰と頭だったら足腰が陰だよね。これは上下の区別で考えると下が陰だからさ。
キュウタロウ : そうだね。陰陽をいろいろな尺度でみると陰の病気か陽の病気かわかってくるね。
マツハリ先生 : そう。例えば、問診するとそれほど慢性でもない症状なのに、陰証の話が多いとするね。
キュウタロウ : うん。
マツハリ先生 : そのような場合は、内臓に病気が隠れているんじゃないかな?って疑うんだ。
キュウタロウ : へぇ。
マツハリ先生 : 実はそれだけじゃない。鍼灸師には脈診っていう武器がある。患者さんが嘘を言おうが、自覚がなかろうが、脈の判断でことこまかにわかるってもんさ。
キュウタロウ : 最初から脈診すればいいじゃないかっ。
マツハリ先生 : いやいや、総合的に判断するんだよ。四診法のところで説明したと思うけど、情報は多いほうが正確に判断できるからね。
キュウタロウ : それほど慎重に行くのか。。。
マツハリ先生 : それだけじゃないんだよ。上手に治療をしていくと、陰証だった特徴が薄らいでいくんだ。
キュウタロウ : どういうこと?
マツハリ先生 : そうだな。よくあるのは、昼間にしか眠れなかった人が夜にちゃんと眠れるようになる。
キュウタロウ : 昼間に寝て夜に寝れないっていうのは陰陽が正しくなかったんだね。それが正常化するのか。
マツハリ先生 : 他にも口が渇きやすいとか便秘がちとか落ち着かないっていう陽証的な状態が正常化するっていうのも多いね。
キュウタロウ : 陽証が中和されるのか。
マツハリ先生 : そうだね。快方に向かった証拠さ。
キュウタロウ : 痛みでも陰とか陽とかあるの?
マツハリ先生 : あるさ。陰の痛みは、重い痛み、うずく痛みだよ。雨が降る前とか、台風のときなんかに特につらくなるよね。陽の痛みは刺すように痛いとか、熱感があるとか。陰陽ってことで見ていけばわかるようになるさ。
キュウタロウ : そっか。やっぱり陰陽なんだね。
マツハリ先生 : そうだよ。陰陽で判断することは非常に大切なんだよ。
キュウタロウ : 今度から病気とか痛みとかは陰陽に注目して分けてみることにするね。
マツハリ先生 : 陰陽は病気だけじゃなくて、病状にも影響する。例えば陽気といって、陽の気がありあまっていると身体が熱いのに熱がでないんだ。これを「表邪の実」っていうんだよ。
キュウタロウ : 表邪の実ねぇ。。。
マツハリ先生 : 原因が表にあって、生気と邪気が表面で戦っているって考えるんだ。
キュウタロウ : その逆もあるんでしょ?
マツハリ先生 : そうだよ。陰気がありあまっていると多くの汗をかいて身体が冷えるんだ。これを「陽気の虚」っていうよ。
キュウタロウ : 気の多い実っていう状態も、少ない虚っていう状態も両方バランスを欠いているからよくないんだよね。
マツハリ先生 : そういうことだね。鍼は刺す道具じゃないっていう話しはここで思い出せるかな?
キュウタロウ : うん。気を調整する道具だよね。なんか、話しがちょっとずつつながってきた気がするよ。
マツハリ先生 : 陰が勝てば陽病を起こし、陽が勝てば陰病を起こすようになる。だから、陰陽調和している状態が理想なんだ。なんの陰陽調和かというと、気とか気血って言い方になるね。
キュウタロウ : なるほどね。
マツハリ先生 : そして「陽が勝つときは熱し、陰が勝てば寒となる」という言葉がある。陰が少ないっていうのは、夜ふかしとか、足が冷えるとか、冬に無理をするとか、いろいろ陰の想像ができるんじゃないかな、それが無理をして減らした状態なんだよ。そうすると陽が勝ってしまい、発熱したり、熱がこもって苦しくなるんだ。逆に落ち込むとか、冷たい食べ物を多く摂ったりすると体が冷える。つまり寒となるってことだね。
キュウタロウ : ちょっとしたルールを知っているだけで納得することが増えるね。
マツハリ先生 : ちなみに一般的な「痛み」ってやつは「冷えの気」と「生気」がぶつかって痛みが発生するって考えるんだよ。
キュウタロウ : へぇ~。
マツハリ先生 : だから、痛みっていうのは、だいたい温めると治るんだ。なんせ「冷えの気」が減るんだからね。
キュウタロウ : おぉぉぉ。すごいわ~。そういう説明になるんだね。
マツハリ先生 : 必ずしも絶対じゃないけど、だいたいそうなる。絶対じゃない理由は、もうわかるよね?
キュウタロウ : 陰証とか陽証とか、痛みにもいろいろあるからでしょ?
マツハリ先生 : そうだね、そのとおりさ。今ぶつけて、足が痛いっていうのは、どう考えても陰か陽かで言ったら「陽」だもんね。急性は陽。痛みも陽。発赤や発熱も陽。だから、この場合の痛みは冷えからきたものじゃない。いくら痛みの原因に冷えが多いと言ってもこのケースは温めちゃダメってことになる。
キュウタロウ : じゃ冷やすの?
マツハリ先生 : 初期の対処は冷やす。だけど、冷やし過ぎるのもよくないのでほどほどにね。
キュウタロウ : でたっ、中庸~。
マツハリ先生 : ちなみに「かゆみ」っていうのは、熱がこもっているとなるので、だいたいのかゆみは冷やせば落ち着く。
キュウタロウ : どうりでお風呂上りに背中がかゆくなるわけだ~。
マツハリ先生 : そうでしょ?かゆくてひっかくとさらにかゆくなるのも、かいて熱を発生させているからなんだよ。
キュウタロウ : 知らなかったな~。
マツハリ先生 : なんでもかんでも病気と思ったり、安易に薬に頼らなくても対処できるといいと思うんだよね。
キュウタロウ : マツハリ先生、もっと東洋医学ひろめてくれればいいんだよ。
マツハリ先生 : 無茶言わないでおくれよ。これでも頑張っているんだから。お互いがんばろうね。
キュウタロウ : 僕、ツイッターでお勉強したことつぶやいているもーん。
マツハリ先生 : 君はフォロワーさんもいるから心強いね。よし、私も頑張るかっ!
第17話を終えて
陰陽というものは、古代中国人の価値観のひとつです。いまでは「科学的」というと信用が増すようにかつては「陰陽」という共通認識で物事を考えていました。
ですから、科学的な視点で考えると当時の発想はよくわからなくなりますが、陰陽という視点でみると妙に納得する点が多いものです。
本文にもありますように「痛み」は冷えが原因で発生するものとあり、だからこそ「あたためる」という対処が取られます。(もちろん冷えだけが原因とは限らないのでその場合は闇雲にあたためればよいわけではありません)
もう少し専門的に言うと、心理的なものも陰陽で分類できます。肉体的なものが陰、精神的なものが陽となり陽気不足で参ってしまうことも考えられます。そして鍼灸師はそのような心身のバランスを考え主に鍼や灸で調整しようとするのです。
私も鍼灸学生の頃は興味半分でしたが今ではこのような発想でしか対処しません(対処できません)。
それほど陰陽の奥は深く、また鍼灸の奥は深いものなのでしょう。
結論だけ言うと「楽しい」「興味が沸く」なのですが、それをキッチリ説明できるようになるまでには、まだまだ道が長い気がします。
マツモト コウイチ
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