五臓について(心)

鍼する左手 灸する右手

 

中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です

わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!

#21 五臓について(心)

 

キュウタロウ : ねぇねぇマツハリ先生、この前の五臓の話しはかなり難しかったよ。
マツハリ先生 : そりゃそうだよ。五臓の5つがわかってから復習したらまた理解も違うと思うけどな。

キュウタロウ : そういうものなのかぁ。
マツハリ先生 : さっ、ヤル気をだして今日も勉強していこう。今日は五臓の心だよ。

キュウタロウ : よっし、教えてください先生!
マツハリ先生 : 心(しん)っていうのは肝のときと同様に心臓だけを表現しているわけじゃない。いいね?

キュウタロウ : はいっ
マツハリ先生 : それじゃどういう作用があるだろう?ヒントは象意である火なんだよ。

キュウタロウ : 火がヒント??
マツハリ先生 : そう。火は熱い、広がる、赤い、上昇する、いろいろ連想できるよね?

キュウタロウ : うん。心臓もそういう発想でいいの?
マツハリ先生 : まぁそういうものを気にかけていくと共通点が見いだせるかもしれないね。五臓の心は心臓が代表となる。だけど、すべてじゃない。

キュウタロウ : 肝のときも肝臓がすべてじゃないって教えてくれたものね。同じことか。
マツハリ先生 : 例えば心臓とは言うけれど、心臓の役目は心臓がすべてじゃないんだ。

キュウタロウ : また、意味不明なことを。。。
マツハリ先生 : いやいや、ちゃんと意味があるよ。身体全体が心臓であるって言えるんだよ。つまり全身をめぐる血管と心臓の働きは違うかもしれないけれど同じ仕事をしているんだ。しかも、心臓と脈管を比べれば、はるかに脈管のほうが容量も多くて、働きも広範囲に分布している。

キュウタロウ : そう言われればそうかも。。。
マツハリ先生 : キツネにつままれたような顔をしないの。騙されてないから大丈夫だって。

キュウタロウ : マツハリ先生はいつも常識とは違う考え方をするよね?
マツハリ先生 : 常識かどうかは別として、東洋的な見方というのは、全体を見ているということなんだ。理解を深めるために五臓という話をしているけれど、五臓を通して経絡や人体の仕組みを理解しようとする試みなんだよ。

キュウタロウ : そっか。これでもわかりやすいように解説してくれているんだね。
マツハリ先生 : 血液の循環に関しては心臓よりも脈管の方が重要だってわかるかな?当然、心臓も大切だけれどね。

キュウタロウ : うん。容量や範囲の広さは脈管の方が上だからだね。
マツハリ先生 : そして人体の脈管の大半が腸にあるんだ。だから、腸は大切だってことが血液循環の面からも言えるわけさ。これは副心臓って言っていいくらいなんだよ。

キュウタロウ : 消化吸収だけじゃないんだね。腸は大切なんだね。
マツハリ先生 : 人体はすごくよくできているんだよ。ひとつの臓器がひとつの機能だけじゃないんだ。複雑に関係して、影響しあっているんだよ。

キュウタロウ : いつも心臓が頑張っていると疲れちゃうんじゃないの?
マツハリ先生 : 心臓は夜に休んでいるんだ。起立した姿勢だと脳や上半身、つまり上の方に血液を送り出さなければならない。これを立体循環っていうとするとね、寝ている姿勢、つまり立体循環に対して水平循環であると心臓が中心になって働かなくてもいい状態になる。だから、心臓は夜に寝ることによって休めるわけなんだよ。

キュウタロウ : そっか。休むってことだけど、止まる必要はないのか。
マツハリ先生 : 止まっちゃったら大変だからね。日中は強火で夜中や弱火みたいなイメージでどうかな?ほら、よく命はロウソクの炎に例えられるじゃないか。

キュウタロウ : そうだね。そういう見方ができるね。
マツハリ先生 : 心臓の負担は夜に寝るだけじゃない。水平循環によって心臓が休めるのだから、病気で寝ていることも「休む」という意味になるね。

キュウタロウ : わぁ、そうか。すごいね。そういう説明聞くと納得しちゃう。
マツハリ先生 : 横になると小腸は蠕動(ぜんどう)運動を始めるんだ。手足の動脈、静脈は昼間に躍動する。小腸の動脈、静脈は夜寝ているときにより動くんだよ。

キュウタロウ : あっ、消化は寝ているときに行われるって聞いたことあるっ
マツハリ先生 : そうだね。関係あるんじゃないかな。

キュウタロウ : ねぇ、他には?
マツハリ先生 : 心(しん)と関係深いものだと舌かな。

キュウタロウ : 舌ってベロのこと?
マツハリ先生 : そうだよ。西洋医学としては舌と心臓はいっさい関係ないって考えると思うけど、東洋医学は関係あるっていうんだ。理由は明確ではないけど、関連があるというのは間違いないってさ。

キュウタロウ : そうなんだよね。経絡とかもなぜそういうものかは、わからないけど関係あることが多いよね。真理だからそういうものだって言われちゃうととりあえず理解しなきゃって思う。
マツハリ先生 : そういう状態から、いつか理解できることもあるだろうし、真理がわかる日がくるだろうね。私はそう信じているよ。

キュウタロウ : ところで舌ってさ、そんなに変化するの?
マツハリ先生 : 心臓に異常や負担があると舌の先がしびれることがある。感覚が薄れることもある。どんどん病んでくると舌が巻いて発生しにくくなり舌が縮んでしまうんだ。逆に舌が長いと長生きするとも言われているんだよ。

キュウタロウ : 前にさ、舌診って聞いたことあるんだけど。。。
マツハリ先生 : 舌診。そうだね。舌はいろいろな変化をするよ。ただ、キュウタロウ君が舌を観察するときはだいたい健康な人の舌だから、あまり変化がないだろうね。舌が白い人は冷えの影響が大きいし、逆に赤い場合は熱だよね。舌が黒い人もいるし、黄色い人もいる。いづれも病的な場合だけれどね。

キュウタロウ : 今度から注意深く観察してみよっと。
マツハリ先生 : 次は顔色。顔色は五色でいうところの赤が象徴的になるよね。

キュウタロウ : 顔色ってやつは一般の人でも「顔色がいいね」「顔色が悪いわ」って言うものね。
マツハリ先生 : 五臓と色の関係を言うと肝は青、心は赤だよ。そして脾は黄、肺は白、腎は黒さ。こういう表はあとでまとめて作っておくね。

キュウタロウ : ところで顔色はどこにでてくるの?
マツハリ先生 : 面色で心の現れやすい面部位は眉頭、眉直上、眉間(印堂(いんどう))っていうところだね。

キュウタロウ : 印堂っていうのは、インド人が赤い点を付けている場所みたいだね。
マツハリ先生 : そうだね、そのあたりさ。その周辺が他の皮膚に比較して紅色になっているのは脳内が充血していることを示すんだ。そしてずっと続くと脳出血になる可能性がある。このような症状は心臓の異変を疑うね。

キュウタロウ : そ、そうなのか~。これは要チェックしなきゃー
マツハリ先生 : 脳内圧が高まると頭痛だけではなくて、吐き気を伴ったりするからね。肩こりなどを早めに解消する必要がある。すべてが心臓が悪いってわけじゃなくて、心臓に負担がかかるっていう場合もあるからね。あまり早とちりして患者さんや一般の人を驚かしちゃダメだよ。

キュウタロウ : うん。相手の気持ちを思いやりながら説明しなきゃいけないね。
マツハリ先生 : そうさ。他にも心は汗と関係が深いよ。発汗の働きは心臓系で行われているって考える。多汗は心の働きが旺盛で保温発熱力が高い証拠なんだ。つまり、熱が異常に高まるからこそ熱を抑えようとする機能も同時に持っているって考えていい。車の運転を考えるとわかるけど、アクセルのとなりにブレーキがあるようなものだね。

キュウタロウ : 病的な発汗は心臓が一時的に亢進しているって考えていいの?
マツハリ先生 : そうさ、そのとおり。冷や汗も一時的な熱の急上昇だよ。

キュウタロウ : 冷や汗だから冷たいってことじゃなくて、熱があるから汗なんだね。
マツハリ先生 : 熱の発生は肝と心の役割。血液と血管壁との摩擦によって発熱する。だから、寒くなると血管を収縮させて摩擦度を高くして発熱をコントロールしているんだよ。例えば老人はよく肺炎を起こす。これは老人になると血管の収縮力が弱くなって身体が暖まらなくなり、自然に冷えが身体の深いところに入ってしまうから悪化してしまうんだ。

キュウタロウ : すごいね。そういう理由って考えるわけなのか。
マツハリ先生 : 血液と血管壁の摩擦による熱って考えるけれど、逆に血管壁が収縮して摩擦が増えれば熱を作ることもある。だから、興奮して怒ったりすると顔が赤くなったりする。

キュウタロウ : ふ~ん。
マツハリ先生 : 次は心理作用だよ。喜悦っていうのは、簡単に言うと喜ぶってこと。心の働きが強く亢進した結果でそうなるんだ。木が火化したものが「喜び」。積極性の精神を作っているのが木気。積極性の精神を一過性にひとつの方向に集約するとふるえて怒りになるんだ。肝である木が働いて心臓の原動力となり、心(しん)の働きが精神面に作用したものが「喜び」なのさ

キュウタロウ : 肝で聞いた話とセットでみていくと、わかりやすい気がしてきた!
マツハリ先生 : 心の状態が旺盛、つまり心旺(しんおう)の人は笑いが多いんだ。大笑いすると熱くなる。心が賦活され循環が盛んになる。

キュウタロウ : なるほど。
マツハリ先生 : それとは対照的に肺旺(はいおう)の人は沈黙が多い。この説明は五臓でも肺のときに説明すると思うけど。

キュウタロウ : なんで、いまその話?
マツハリ先生 : 実は「笑いは悲しみを制する働き」があるんだ。火剋金でね。

キュウタロウ : 相剋関係っていうやつがでてくるわけだね?
マツハリ先生 : そう。心は心単独ではなくて、相生相剋関係を理解しながらの方が間違いがないからね。

キュウタロウ : そういう活用法があるのか。
マツハリ先生 : 悲観には悲観をもって対応するのもいいんだ。

キュウタロウ : 虚を補うっていうものか。比和って考えてもいいのかな?
マツハリ先生 : そうだね。ただ注意する点もある。いくら相剋関係だと言っても、火で金を制する場合には、肺力がある程度強くないと悲しみは解けない。肺力が非常に弱っているときに火系の笑いを用いると、なお一層悲観的になってしまうんだよ。

キュウタロウ : うわぁ、想像しただけでゾッとするね。笑ってくれないだけではなくて、余計、悲観させてしまうなんて。
マツハリ先生 : このあたりもバランス感覚が必要。なんでも理屈に当てはめるのではなくて、慎重に全体のバランスを見極める必要があるんだ。

キュウタロウ : そっか。勉強になるなぁ。最後に脈について何かないの?
マツハリ先生 : そうだね、脈のことにもふれておこう。心は夏と関係が深い。だから、夏の脈ってことが大切になる。

キュウタロウ : そうだね。それじゃ夏の脈を教えて
マツハリ先生 : 夏の脈っていうのは洪脈といって、体表の浮き上がってくる脈だよ。血管というものは、体内の熱が増えれば熱が逃げるように皮膚表面に浮いてくる。逆に寒くなると骨の近くに沈むんだ。

キュウタロウ : 夏の脈は夏だから、熱を逃がそうとするわけか。
マツハリ先生 : 脈状は体内における熱の表現をしているって考えるとわかりやすいかな。

キュウタロウ : なるほど~。今日もとっても勉強になったよ。マツハリ先生ありがとう。
マツハリ先生 : 肝と心が終わったから早くも5分の2が理解できたわけさ。この調子で全体像がつかめると五臓だけではなくて、陰陽論や五行説のところで学んだ法則や関係性がわかるからね。しばらくの辛抱だよ。

キュウタロウ : うん。最初はうんざりしたけど、わかるところから興味を持っていくつもりだよ。
マツハリ先生 : あらら。それはそれでしょうがないか。でもね、多くのことに興味を持ってくれると信じているからね

キュウタロウ : それはどうかな~
マツハリ先生 : おいおい、そこは「わかったよ!」じゃないのかい?

 

 

第21話を終えて

 

五臓でいう心は火を象意としています。

また心臓のみならず脈管系すべてを心臓の機能と考えます。このあたりがとても東洋医学的といいましょうか東洋思想的な発想が垣間見えます。

東洋思想の根底には「一事が万事」という考えがあります。1つの現象がすべての現象に共通しているということです。また逆にすべての現象が1つの現象を代表しているとみます。

例えば地球は一つの生命体になぞらえることがあります。

生態系がすべて機能すると生命力があるようにダイナミックなシステムを構成します。

今回の五臓の心に限らず、五臓すべてが調和をとれてはじめて五臓のなかの心の役割をまっとうできます。心単独では意味がありません。このように五行は調和が大切なのです。

この五臓の心を学ぶと、人体は「いかに熱を作るのか?」そして「いかに熱を逃がすのか?」というテーマによって体調が整えられていることがよくわかります。それと同時に熱のコントロールを難しくする「冷え」がいかに問題となるかが間接的に理解できるのです。

ですから、生食・冷食や薄着・夜更かしは体調管理に大きな負担をかけますので注意しましょう。

 

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マツモト コウイチ

開業22年超の鍼灸師です。