鍼灸師が経営困難に直面するという話しは業界にいれば珍しいことではありません。ここでは何回かのシリーズに渡って鍼灸師向けに役立つ内容をお伝えしたいと思っています。
【シリーズ鍼灸師の考える経営】今回は(2)「自営業としての投資」についてお伝えします。
そもそも自営業は”投資”をしている
自営業は事業そのものがギャンブルのようなものです。「ギャンブルのようなもの」というのはギャンブルにもなりますし、そうでないようにもできるからです。
鍼灸院経営を考える前に自営業はすべて投資をしています。
私はテレビゲームでシムシティや信長の野望といったシュミレーションゲームが好きでした。だから、経営も楽しいもの・やりがいのあるゲーム程度に考えていました。
少し違ったのはシュミレーションゲームと違い「自分が動かなくても現実は進んでしまうこと」「選ぶ手段が数限りなくあること」「講じた手立ての影響で良くなったのか/悪くなったのか因果関係がよくわからないこと」などあり、ゲーム感覚だけでは済まないという極めて当たり前の感想を覚えています。
鍼灸師としての課題というより自営業者としての課題になるのですが、投資というのはお金を使うだけでなく時間や情熱を注いでいるという意味でも「投資」をしているのです。
だからこそ、リターンをしっかり獲得して、ビジネスを安定して継続できるレベルまで持っていくことが肝要です。そして、その安定した経営レベルにおいて最善の治療を提供することこそ鍼灸院にとって必要な経営方法だと思うのです。
お金を払ってからお金を受け取る
多くの自営業でも鍼灸院でも同じなのですが基本的に出費が先です。鍼灸の道具を買う、治療院施設を用意する、自分の服装を整える、ホームページやチラシを作る。ちょっと考えただけでも開業準備のために「先に」お金が出ていってしまうわけです。
そして、患者さんに価値を提供して対価としてお金を受け取るわけです。
この流れはどのように工夫しても変わるものではありません。(あまり変わっていると世の中に受け入れられないので現状ではイノベーションが起きない限りこの流れのままでしょう。)
ここで注意があります。
私たちが開業の準備や再出発の施策を打つときの行動は相手にとって「お客さん」という関係になります。ですから、業者さんなどの相手は言うことをすんなり聞いてくれます。
そして、こちらもいろいろ発注していくと「仕事をしている」という錯覚になります。
チラシの準備、ホームページの発注、看板のデザインなどすべて「やっている感」が出ますが、それは仕事ではありません。お金がどんどん出ていくことです。
とにかく「仕事をしていて」「物事が進み」気分が良いものです。
それで仕事をした気になってはいけません。
私たちは「入るを量りて出ずるを制す」と『礼記』にもありますが、とにかく自分の理想や実現化するように何か物事が進むことを仕事と思うのではなく、売上が立って仕事をしたと認識するように注意しましょう。
似たような現象に暇な時間に勉強をしていたとします。これも仕事した感がでます。
勉強ではないにしても経理事務をやっていたりブログを書いても仕事をした感がでます。
それらは錯覚です。売上は立っていません。プライベートな時間以外を仕事だと誤解しやすいですが、売上のための準備ならまだしも、趣味だか仕事だかわからないような時間を過ごさないように注意してください。
まず間違いなく開業当初はこのような罠に一度はハマるものです。どこで気づくか気づかずに焦るか。しっかりと経営者という自覚を持つことが必要です。
おそらく最大の投資
「治療をしてお金を稼ぐ」という原理的なことは当たり前だとして、次の課題です。
どうやって顧客に必要性を理解されるか?(集客するか?)ということが必要になります。
その点にお金をかけることが鍼灸院(治療院)ビジネスにおいて最大の投資(投資機会)になることは間違いありません。(前回の投稿では「この費用を減らすことが利益の源泉に直結する」と予告しました。)
もちろん、宣伝広告の経費節減についていずれ言及しますが、まずはそれまでに必要な知識をお伝えしますのでいましばらく我慢してください。
いくつかの確認をしておかないと宣伝広告の経費節減にはたどり着きませんので、しっかり理解していきましょう。
広告の基本的なミス
鍼灸師は鍼灸で腰痛を治せることを知っています。
それだけではなく風邪を治したり、アレルギー体質を改善したり、不妊治療や逆子治療が可能なことも知っています。
ガンや難病が治らずとも病状が軽減したり、薬の副作用が軽くなったり睡眠や食事に苦労しなくなることもあります。鍼灸師なら驚くことがないくらいよくありふれたお話です。
…ただ、それは鍼灸師だけの話しです。
一般的な人はそのような情報は知りません。風邪の予防や治療で鍼灸院に通うことは不思議に思うくらいです。これが現状です。
(自立神経の安定化が図れるのですから免疫力の安定に直結なのは言うまでもないのですが…)
鍼灸師は自分が対応できる症状、疾患、状態であっても「一般の人が理解しているとは限らない」というアイデアは思いつかないものです。
ですから、鍼灸師側の「なぜ患者が来ない?」のと患者さん側の「どこで治せばいいの?」の間に大きなミスマッチが発生してしまうのです。このことを理解しないのが鍼灸師の基本的なミスです。
広告の内容については今後、考えておきたい点をお伝えしますので参考にしていただければと思います。
他は気にしない
鍼灸院は独自性の高いビジネスモデルです。ですから整体院であろうが接骨院であろうが、同業に見られようが構わずに確固たる信念に基づいて鍼灸院を経営していきましょう。格安マッサージが敵ではありません。保険診療でなく実費診療だからという言い訳は必要ありません。
今後、広告の手法に言及していくと思いますが、これはダメなものを売りつけるのではありません。正しい技能を正当に評価してもらうために「鍼灸院」という存在をまず認知してもらうというだけなのです。
鍼灸は「痛そう」「怖そう」という不安感で見られています。つまりマイナスからのスタートです。ですから、正しい認識を広げていけばそれだけで良く見られたときのギャップが大きいのです。
『史記』に「嚢中の錐」という言葉があります。「袋の中に入れた錐は、その先端がおのずと袋の外に突き出て目立つ」ということです。私たちが行うのは錐の役目をしっかりと行うよう日々しっかり刃を研いでおくようなものです。
コツコツ行くこと
着実に進むことを選ばず一発逆転を狙っていると、患者さんもそのような人が集まります。つまり、早く治ればいいという焦りが術者にも患者にも蔓延してしまうのです。
もちろん、そのまますぐに治る症状だけであればよいのですが、仮にすぐに治ったとしても「もっとギリギリまで無理する」ようになるだけであり、お互いが疲弊するようになります。
私たちは「治す」という大目標を持つことは大切ですが「早く」という言葉と矛盾する場合があるので注意が必要です。経営も同じように「利潤を生み出す」という大目標は大切ですが「早く」という言葉がときに無理を生じさせます。このことはすべてに共通しますので急がず休まず絶え間ない改善を心がけましょう。
今回のまとめ
- 宣伝に限らず自営業はすべてが投資になっている
- 仕事をしている錯覚に注意しよう
- ニーズとの大きなミスマッチがあることを知ろう
- 宣伝は決してダメなものを売りつけることではない
- 急がず休まず絶え間ない改善を心がけよう
次回は実際の広告についてお話したいと思います。
次回をお楽しみに
(つづく)
マツモト コウイチ
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