セールスの3段階

鍼灸師が経営困難に直面するという話しは業界にいれば珍しいことではないでしょう。ここでは何回かのシリーズに渡って鍼灸師向けに役立つ内容をお伝えしたいと思っています。

【シリーズ鍼灸師の考える経営】今回は(5)セールスの3段階と題してお伝えします。

 

広告の意味と意識をしっかりと

 

今回のお話しは少し聞き慣れない言葉が登場します。ですが、とても大切なお話なのでぜひ最後までしっかりお読みいただければと思います。

私たちは広告や宣伝というと、自分の主張を声高に相手に記憶させようとします。そこにはこちらの思いや相手の理解を必要としない「選挙の街宣活動」のように映る場合もあります。

選挙の街宣活動が悪いたとえとしてお話しに出しましたが、多くの広告でも知名度が高まったところで「だから何?」というパターンが多いことに気づくでしょう。

鍼灸師が鍼灸院を経営していくなかで何も苦労せず患者さんに理解されていれば宣伝の必要はありません。しかしながらそのような状況ではない人がほとんどだと思います。だからこそ、しっかりと広告の意味を理解して意識を持った宣伝をすることで効果のある行動をしていきましょう。

 

広告には3つの種類があります

 

A.プロダクトセールス

 

プロダクトセールスとは、主に商品説明のようなものです。

たとえば「ドリルはこのような機能があります」と紹介するようなものです。

あまり深く考えずにドリルを売ることを考えればまっさきに行う広告はプロダクトセールスになるでしょう。「ドリルは3000円です」「替刃が1000円です」「充電ができます」このようにそのモノ(サービス)について説明を加えていき相手に知識が増えていくのがプロダクトセールスとなります。

 

B.ソリューションセールス

 

ソリューションとは問題解決策のことです。

たとえば「穴を開ける(問題)にはこのドリルが良い(解決策)でしょう」と紹介するものです。

穴を開けることに注目してみたけれどどうしたらよいか?というときにドリルが良いですよと提案しています。問題が認識できれば解決策としての商品は本当に必要だから喜んで購入されるでしょう。

 

C.インサイトセールス

 

インサイトというのは洞察、見識という意味です。

たとえば「ここに穴をあければ快適に使えます」と紹介するものです。

ドリルの宣伝のはずなのにドリルという言葉がまったくでてきません。ただ、少し考えればわかることですが穴をあけるにはドリルが必要だとすぐに思いつくのではないでしょうか。つまり穴を開ける必要性(重要性)に気づかないからドリルの必要性も気づかないと考えます。

 

 

鍼灸院に置き換えてみると…

 

A.プロダクトセールス

 

「鍼は痛くないです」「お灸は熱くないです。やけどしません」「施術費は5000円です」鍼灸院で宣伝する場合このような言葉があればプロダクトセールスという視点に分類されます。

プロダクトセールスを基本とすると価格競争力を意識する経営戦略を取る場合も増えるでしょう。プロダクトの魅力をどう訴求するかというテーマでしか物事が見えなくなりますし、また同業他社と比較するときでも少しでも優位になろうとするからです。

たとえば鍼灸院の費用を回数券(チケット制)として1回分無料を付加するとか、ご夫婦で来院すると割引にするということを考えると思います。(このことの賛否については意見があるでしょうがプロダクトセールス不足で鍼灸院に来院が無いと思えばこの経営戦略でOKです。ただし現実的にはプロダクトセールス不足では無いことに気づくはずです)

囲い込みとしてポイントカードや割引券を活用しようとする向きも考えられますがあまり良策とはいえません。鍼灸院の魅力はプロダクト(サービス)の魅力で決まるものとは限らないからです。このことを簡単に説明すると、いくら初回無料であっても症状が改善されないのであれば通院する動機にはならないということです。

この場合、症状の改善を期待しているわけですから価格をディスカウントするという訴求はあまり意味を持ちません。

 

B.ソリューションセールス

 

「逆子には鍼灸が良いです」「冷え性でお困りの方へ」「○○病に効きます」このような言葉があればソリューションセールスという視点に分類されます

悩みや問題は把握しているが解決策やその手段がわからない場合に有効なアプローチの方法です。

ちょっと考えればわかりそうなことでも思いつかないことが多々あります。鍼灸では免疫力が向上すると知っていても風邪に有効だと思いつく人は少ないように。

それを承知でピンポイントに宣伝に活かす人もいます。「冷え性」というより「指先の血色が悪い人」と具体的な現象に落とし込んだほうがその情報に触れた人がピンとくる可能性も高まります。

ソリューションセールスを考えるときには必ず明確なターゲットが必要です。どのような人にどのようなメッセージを伝えれば良いのか。十把一絡げとして症状を羅列しているだけでは到底、相手に刺さりません。どのようなセールスでも独りよがりなメッセージを投げ続けていては意味がないのです。

 

C.インサイトセールス

 

「未病治という言葉をご存知ですか?」「薬を飲みたくないという気持ちを応援します」このような言葉があればインサイトセールスという視点に分類されます

今ではインターネットを活用すれば「何が問題か」に対する答えや事例をたくさん知ることができます。つまりソリューションセールスをする前に、相手はソリューション(解決策)が何かを薄々気づいているのです。

ですから相対的にソリューションセールスを必要とする機会(価値)が減ります。

もちろんソリューションセールスを必要としない人にはプロダクトセールスの方がほしい情報かもしれません。その場合は速やかに先方に必要な情報を届くようにしましょう。

そもそも私たちが宣伝する対象というのはAやBの段階の前段階に接点を持つ人の方が多いと思います。つまり、困っていることはあっても鍼灸院で解決できると思っていない(知らない)層です。

その人たちへ気づきを与えることは大きな価値になります。

たとえばいままで頭痛や生理痛のときに仕方なく薬を飲んでいた人がいたとしましょう。その人にとっては薬を飲むことが「仕方がないこと」だったのです。そうではなくて薬を飲まない方法があるというアプローチが有効になることもあるのです。

少し考えると「生理痛を治す」(ソリューションセールス)と同じじゃないか?と思われますが、生理痛を治すことよりも薬を飲みたくないという悩みのほうが多ければ、痛みを我慢してでも薬を飲まないようにしようという動機が働く人がいるのも事実なのです。そのような人にも鍼灸が有効だと知ってもらうためにはインサイトセールスに寄ったアプローチの方が価値が高いのです。

 

鍼灸師のアピール

 

一般的に鍼灸師のアピールはAまたはBが多いものです。

(だから顧客に刺さらないとも言えます。)

 

プロダクトセールスはサービスに興味があってから知りたい情報です。鍼が痛いのかどうかというのは健康の維持に興味がある人はまだその情報の必要性すら感じていないのです。

例えるならカレーにしようかステーキを食べようかと迷っている人に「このじゃがいもは北海道産です」と言っているようなものです。

ですが、残念ながら鍼灸師が鍼灸をアピールするときは、ほとんどがプロダクトセールスなのです。(鍼灸院で検索して見つかったホームページのほとんどがプロダクトセールスだとわかるでしょう)

 

そして、次に多いのがソリューションセールスです。どの病気に効果があるか一覧表を載せいている鍼灸院も多いでしょう。有名なとこではWHOの適応疾患一覧を掲示しているところもあります。院内であってもホームページであっても、病名を確認してから通院を決意する人がどれほどいるでしょうか?

むしろ、私は何かの疾患・症状で参っている人が細かく文字を読まないのではないかと思っています。(実際に掲示物は読まれないと実感しています)

また私たち鍼灸師だけでなく治療家全般に言えることですが自ら「治る」「治せる」と声高に宣伝するのはあまり効果的なアナウンスにはなりません。どうしても治療と商売が同一視されてしまう(商売っけが多いと誤解される)からでしょう。

 

鍼灸師が心がけること

 

さきほどたいていの鍼灸師がA→Bのアピールであることを言いました。

私たちが患者さんのため(一般の方のため)を思うのであれば、A→Bの説明ではダメです。

ここで提案するのはC→B→Aの順になります。普段からインサイトセールスを主張するのです。患者さんが気がついていない課題、一般の方が気がついていない課題を見つけるプロセスが必要なのです。

たとえば鍼灸が予防に効果があるというのであれば「A:鍼は痛くない」でも「B:治療効果がある」でもなく「C:日頃からの体調管理が大切」と説くのです。

もちろんCが大切なのですが同じ言葉をキャッチフレーズのようにただ繰り返してはダメです。このあたりも工夫が必要ですのであらためてお伝えしたいと思います。

AもBもCも実際はケースバイケースなのですが、それを意識して伝えることが可能になれば、しっかりと来院に意味を感じてくれます。そして来院が続けばしっかりと結果を出していくことはそれほど難しくないでしょう。

 

今回のまとめ

 

  • 知名度があっても来院につながらなくては意味がありません
  • プロダクト、ソリューション、インサイトの区別ができるようにしましょう
  • 鍼灸師のホームページはプロダクトセールスに偏重する傾向にあります
  • 鍼灸師のアピールはソリューションセールスに偏重する傾向にあります
  • 相手に刺さるアプローチが自在にできるように心がけましょう

 

次回をお楽しみに

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マツモト コウイチ

開業22年超の鍼灸師です。