『儒林評』の要約

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広瀬淡窓が著した儒林評を知ることによって江戸時代のおおまかな儒学の系譜が理解できます。

 

広瀬淡窓

 

広瀬淡窓(ひろせたんそう)は江戸時代の儒学者、教育者、漢詩人です。

広瀬淡窓には眼の病があり、経書(けいしょ:儒学の経典)の本文のみを読んで負担を減らそうとしました。

そのため注釈を無視するかわりに自分なりの解釈を行ったため独自の思想を育みました。

私塾咸宜園は80年間で入門者は4800人にも及び、門下に高野長英、大村益次郎らがいます。

 

広瀬淡窓は『儒林評』のなかで江戸期の儒学を3つの変(ターニングポイント)があると結論づけています。

 

第一変

 

藤原惺窩と林羅山は僧籍から還俗した人物。儒術の中興にして程朱学の開祖です。彼らは徳川家康のブレーンとしてのちに儒学発展の土台を築きます。

それまで従来わずか五山の僧らによって維持されてきた学問が始めて儒者という独立の地位を得たことになります。

五山の僧とは京都にある臨済宗の五大寺。南禅寺を別格として、その下に天竜寺、相国寺(しょうこくじ)、建仁寺、東福寺、万寿寺が位置しています。これは室町時代、足利義満によって定められました。

日本における江戸期の儒学のスタートは学閥として大きな力を持っていた僧侶からの学問の奪還という意味合いが強くありました。

 

やがて中江藤樹が陽明学を唱えます。そして熊沢蕃山が陽明学を継ぎます。

山崎闇斎、木下順庵が京都に朱子学を興します。(木下順庵はのちに幕府の儒官となります)

博多では貝原益軒が朱子学から出て実学を唱えます。(貝原益軒も木下順庵も同じく藤原惺窩の門人、松永尺五(せきご)の同門です)

 

その人と為りと学問がそれぞれ異なっていてもだいたいは性理にもとづいて躬行(きゅうこう:自分みずからおこなうこと)を主としたと広瀬淡窓は言っています。

 

性理にもとづくとは「専ら仏法を排斥して聖人の道をあきらかにすること」という意味です。

 

この観点からすると同じ儒者同士で論争があまり起りませんでした。ここまでの流れが広瀬淡窓『儒林評』のいう第一変です。

 

第二変

 

ついで伊藤仁斎が寛文年間、京都で古義学を唱えます。

やや遅れて荻生徂徠が江戸で古文辞学を唱えます。

ともに宋学の新注の古義を失っていることを述べて当時官学とされていた程朱学を忌憚なく批判しました。ここにおいて儒学者同士の派閥争いが盛んになったのです。

荻生徂徠の古文辞学が唱えられてからは漢文学は大いに発達しました。その反面、躬行を忘れ浮華放蕩の風潮が荻生徂徠門下に出るようになりました。

 

この流れが第二変です。

 

第三変

 

伊藤仁斎の後、伊藤東涯が継ぎ堀川学派が盛んになりました。

一方、江戸では荻生徂徠門下の太宰春台、服部南郭ら有名な門人が多く蘐園学派(けんえんがくは:古文辞に即して経書を解釈することを旨としていたので古文辞学派ともいう)として栄えました。

道義を重んずる程朱学の衰えや回復、宋学の弊などあり互いに取捨し、いわゆる折衷学というものが広まったのがこの頃。

同じ復古学でも文学と道徳のようなものであり、地理的には上方と江戸の相違でもあったのです。

このような流れが第三変です。

 

ものごとの流れ

 

主役の奪還→純粋化→論拠の違いによる主張に差→対立→いいとこどり(折衷案)→主役が移る(主役の奪還)

音楽や絵画などの芸術でも政治でも宗教でも、主流(主役)になると傍流が形骸化したり、慢心から衰退して劣化したり、主流争いを演じるようになります。

そして対立、やがて折衷案へ。

このような流れが江戸時代の儒学でも起りました。

 

さいごに

 

それぞれの主張は先代や次代への影響を与えあい、そしてバランスを取って独自性を発揮します。それはときに折衷案となり、そしてときに独自性を求めて包含したものを排斥します。

この流れこそダイナミックな呼吸のような動きであり、生命ともいえる輝きでしょう。

 

儒学者それぞれの考え方や立場は別の機会にご紹介できればと思っています。

 

 

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マツモト コウイチ

東洋思想研究家でありUdemy講師でもあります。開業15年超の鍼灸師です。ビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を東洋思想家として見渡しています。すべての投稿に関して講義講演が可能な内容となっています。居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。

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