五臓について(肝)

鍼する左手 灸する右手

 

中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です

わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!

#20 五臓について(肝)

 

キュウタロウ : ねぇねぇ、だいたい陰陽五行はわかってきたんだけど、まだ知っておいたほうがいいことある?
マツハリ先生 : そうだね。五行で5つの象意を説明したけど、具体的に五臓に当てはめて説明してみるね。

キュウタロウ : うん。五行だけじゃ人体とどういう関わりがあるかよくわからないからね。
マツハリ先生 : それじゃはじめるね。五臓の生理ってことで西洋医学とはちょっと違うんだけど、東洋医学独特の表現が多いから注意して学んでね。

キュウタロウ : わかった。曖昧なのは慣れてきたから大丈夫。あとからどんどんつながってくるんでしょ?ワクワク。
マツハリ先生 : 五臓の生理だから五行の象意は木火土金水だけど、五臓だから肝(かん)心(しん)脾(ひ)肺(はい)腎(じん)って呼ぶけど、似たような意味だからね。

キュウタロウ : はいっ
マツハリ先生 : 肝(かん)は西洋医学でいう肝臓だけじゃないからね。

キュウタロウ : うん。理解しているつもりだよ。でもさ、肝臓だけじゃなければ肝には何が含まれるの?
マツハリ先生 : 例えば、肝は胆(たん)、筋(きん)、腱(けん)、神経なども含むって考えるんだ。特に神経が象徴的かな。

キュウタロウ : 神経が象徴的っていうのは全然わからないってば。教えてよっ
マツハリ先生 : 神経っていうのは、痛みを伝える電線みたいなものなんだけどさ、全身からのそういう情報を脳に知らせるのさ。つまり、痛みは肝の機能の一時亢進の状態を言うんだよ。

キュウタロウ : へぇ~、痛いのは肝の影響なのか。
マツハリ先生 : 陽性の痛みを温めると木生火なり、なお悪化して痛みは強くなるのさ。痛みの治療は肝の亢進を抑えればいいんだよ。

キュウタロウ : 木生火っていうのは、五行のなかで相生関係のことだよね。覚えてる。こういうときに役に立つ考え方なんだね。
マツハリ先生 : 陽性の痛みに対してっていうのがポイントだよ。これは温めちゃダメ。その逆で陰性の痛みってやつがある。つまり冷えからくるヤツだね。冷えの代表は五行の象意では水。水生木で、木が亢進しちゃうわけだ。

キュウタロウ : そっか。そういうヤツは温めなければ木の亢進が抑えられないわけだね。
マツハリ先生 : すごいじゃないか。そういう理解で間違いないよ。こういう知識の積み重ねが東洋医学だからね。

キュウタロウ : うんうん。もっと教えてくださいな。
マツハリ先生 : 体に対しては神経だけど、心理状態にも影響があるんだよ。

キュウタロウ : 肝がおかしい場合の心理状態ってどうなっちゃうの?
マツハリ先生 : 精神異常は肝の働きが中庸を保っていない人に多いんだよ。心理的に参っている人は必ずといっていいほど肝が関係するのさ。

キュウタロウ : 怖いな~
マツハリ先生 : 目の状態は肝の特徴が反映されるから、目付きがおかしかったり、目の焦点がうつろな人の近くにはいないほうがいいよって昔の本には書いてあるんだ。

キュウタロウ : おおぉ、それは絶対に覚えておこう。
マツハリ先生 : 肝っていうのは、肝臓って考える面もある。だからさ、薬やお酒によって肝臓にダメージを与えることも肝に負担をかけることと同じなんだよ。

キュウタロウ : お酒とかお薬は、肝臓にかなり負担をかけちゃうんだね。
マツハリ先生 : それだけじゃないんだよ。肝は血液の調整にも関係するんだ。だから高血圧や頭痛っていうのも肝が変動しているって考えるんだよ。その変動っていうのは、亢進していたり停滞していたりっていう意味で丁度よい状態じゃないことなんだよ。

キュウタロウ : 肝が悪くなると大変だね。
マツハリ先生 : 血圧が不安定だと情緒も不安定になるものさ。これは偶然じゃなくて情緒と関係するからね。

キュウタロウ : 情緒に影響しちゃうのか。落ち着きのない人やイライラするのは性格だからってわけじゃないんだね。
マツハリ先生 : 実はそうなんだよ。それだけじゃない。睡眠のときは脳にある血液が肝臓に収まる。だから眠れるんだ。肝臓の機能がおかしくなると眠りが悪くなんだよ。

キュウタロウ : ふ~ん
マツハリ先生 : それとね、皮膚と肝臓は拮抗関係にあるって考えるんだよ。皮膚は肺、肝臓は肝だね。肺は呼吸で肝は血流に影響するから心臓が苦しいっていうときは、肝からくる場合が多いんだよ。

キュウタロウ : そうなのか~
マツハリ先生 : しかも、心臓病っていう西洋医学に照らし合わせても、心臓自体がおかしい人は少ないんだって。ストレスで不整脈にもなりえる。ストレスっていうのは確実に肝の影響なんだ。

キュウタロウ : そういうものなのか。心臓が悪いって不安がる人って多いから、こういう理解ができると安心するのかな。
マツハリ先生 : 正しく理解したいよね。必ずどこかに兆候は出るものだから。例えば脈をみることによって心臓全体をみているわけなんだ。それじゃ肝臓はって思うよね?

キュウタロウ : うんうん。
マツハリ先生 : 肝臓を理解するには爪をみるんだよ。爪は筋や腱の延長って考えるから、爪をみることで肝臓を通じて体全体を把握できるのさ。

キュウタロウ : 細かいみかたもあるの?
マツハリ先生 : うん。どこまでこだわるのか説明が難しいけど、爪の厚さや硬さ、形や色などいろいろあるんだよ。

キュウタロウ : すごい観察力だよね。
マツハリ先生 : チェックするところはたくさんあるんだけど、臨床経験が豊かな人になればなるほど、手際よく観察できるんだよ。私もまだまだ修行中だけどね。

キュウタロウ : 鍼灸は本当に奥が深いものね。
マツハリ先生 : 神経、痛み、爪… 肝の特徴はまだまだあるんだけど、あと3つくらい説明しようかな。

キュウタロウ : なになに?
マツハリ先生 : まずは目だね。目は眼球の奥にたくさんの筋肉があって、たくさんの血流が必要になる。目の機能はたくさんあるけど、肝は遠近の調整に関係する。つまり視力だね。視力があっても明るさを嫌がったり非常に疲れるのは心(しん)の影響って考えるんだよ。

キュウタロウ : 目の機能ひとつとってもいろいろあるんだね。
マツハリ先生 : それから、涙。涙は成分としては腎だけど作用としては肝だね。

キュウタロウ : 液体は腎だってことだよね?作用としては肝???
マツハリ先生 : 涙がたくさんでる症状は肺の力が少なく、制御力が落ちたため肝気(肝の経絡の気)が多くなったときなんだ。反対に涙がでないときは、肝腎が虚しているときなんだよ。

キュウタロウ : おとなりのおばあちゃんは、悲しくないのに涙がたくさん出て困ってたよ。(今度教えてあげよう…)
マツハリ先生 : 涙がでて困る人は肝ならヒステリックや不眠も伴うものさ。肺が関係するなら鼻水や寒気などの風邪の症状や皮膚が痒いとか、肺機能の低下が関係する。このあたりの見極めが必要だね。

キュウタロウ : 目でしょ、涙でしょ、あと1個で3つだね。
マツハリ先生 : そうだね。大切な脈の話をしようか。四季に応じる脈として肝は春だから弦脈(げんみゃく)ってことだね。

キュウタロウ : 弦脈ねぇ。
マツハリ先生 : 春だったら常に弦脈でもOKって考える。大雑把に言うと外側が柔らかく、内側に硬さと弾力のある脈だよ。

キュウタロウ : ねぇねぇ、脈って動脈だよね?
マツハリ先生 : そうだよ。手首の撓骨動脈で診断することが一般的かな。その脈拍に指を当てて観察するんだ。外が柔らかくて内が弾力がある。これが弦脈。ほら、氷だって溶けるときは外側から溶けるでしょ?冬から春になると脈も外側が柔らかくなるのさ。

キュウタロウ : 自然の摂理としては同じなのか。すごいなぁ。
マツハリ先生 : 実は性格も同じなんだよ。五行の中で唯一生命力にあふれるのが木。発展性のある人、出生するような人は内が強く、芯がしっかりしており、人当たりがよく外がやわらかいのさ。外に向かって発散していく力というものは内が強くて固く、外が柔らかいものなんだよ。

キュウタロウ : なるほどね~。生命力か。つまりイキイキとする人は発展性もある。そういう人は芯があるけど、外あたりもいいのか。いいこと聞いたぞ。
マツハリ先生 : 生命力ってことでは、この木の象意はずいぶん参考になるだろうね。木は動き始めたり、揺れたり、震えるっていう意味を感じ取ってほしいな。

キュウタロウ : それじゃ運動するのも生命力ってことで良さそうじゃない?
マツハリ先生 : そうだね。しかも一年では春、一日では朝に運動がいいね。肝臓の原動力となるから体操や運動は意味があるよ。ただし、注意が必要さ。運動と労働は違う。運動は賦活、労働は負担。

キュウタロウ : いつものお約束だね、バランスでしょ?
マツハリ先生 : そうさ。無理のない程度に。病気で寝ている人でも朝の運動は必要だから目覚めたらゆっくり手首や足首を動かすといいね。

キュウタロウ : 健康な人がやってもいいんだよね?
マツハリ先生 : もちろん。いつも無口でいると肝の賦活力が不足して、肝の働きである進取性や活気に欠けてくるから、大きな声で挨拶するのも大切だよ。

キュウタロウ : ストレス発散にカラオケが良いのも、そのせい?
マツハリ先生 : 肝が賦活できるものが多いよね。その線で考えれば、筋肉を使うスポーツ、声で肝の賦活化を促すおしゃべり・カラオケ、肝臓を栄養する適度なお酒、感情を開放する感動や感激っていうのは最適だね。音楽を聞くのだって神経を介してだから、木(肝)を賦活するには正しい方法だね。

キュウタロウ : すごいね。おしゃべりしているだけで、どんどん体の機能に詳しくなっていく気がする。
マツハリ先生 : キュウタロウ君、これっておしゃべりじゃなくて、お勉強だよ。

キュウタロウ : えへ、ごめんなさい。あとでメモにしてもう一度読み返さなきゃ。
マツハリ先生 : いろいろな項目を横断して考えることができると更に深い理解が得られると思うからね。楽しんで勉強しようね。

 

第20話を終えて

 

五行の話しから実際に五臓六腑である五臓の話しになってきました。

今回は五行でいう木、五臓でいう肝に注目して解説しています。これら木や肝の関連する一連のものを表にまとめたものを色体表(しきたいひょう)と言います。鍼灸師は必ずと言っていいほど暗記していますので、それほど驚くことはありませんが、一般の方からするとすごい情報が書いてあるとツイッターなどで定期的に出回ることもあるでしょう。

その表自体にそれほど意味はありません。

そうではなくて、その表のようにどこに偏りがあるのかを推測していくことが重要になります。

そして治療においてはそれら偏りのある経絡や臓腑を調整して五行でいう均衡状態に持っていくのです。そのために鍼灸の施術を行うのであって「筋肉を柔らかくする」「血流を良くする」と言いますが、それはあくまでも結果に過ぎないのです。

つまり、五行(五臓)が調和が取れるため、結果として筋肉がしなやかになったり、血流が改善されて手足末端が温かくなるのです。

筋肉が硬いからとそこへ鍼を刺すことは、花が枯れかけているからと花に水を与えるようなものです。全体のことを考えれば水をあげるべき部位は根です。そのようなことが植物では説明が簡単なのですが人体となると急にその部分だけの刺激を考えるのはよくある間違いであり回復を遅らせるどころか悪化する可能性まであります。

自然の摂理から学んだことを人体の健康に活かす。東洋医学は難しいかもしれませんが一度理解してしまえばこれほど活用しやすいことは無いと思っています。

 

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マツモト コウイチ

開業17年超の鍼灸師です。鍼灸の普及啓蒙を実践するYoutubeも始めました。ブログでは東洋医学を中心にビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を見渡しています。東洋思想研究を深め居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。

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開業17年超の鍼灸師です。鍼灸の普及啓蒙を実践するYoutubeも始めました。ブログでは東洋医学を中心にビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を見渡しています。東洋思想研究を深め居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。