鍼する左手 灸する右手
中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です
わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!
#14 証ってものがありまして
キュウタロウ : この前は四診法まで教えてもらったよね
マツハリ先生 : 今日は証(しょう)について説明しておこうかな。
キュウタロウ : 証って謎だったんだよね。
マツハリ先生 : まぁ四診法をする目的が証を決めるためだし、また証がわかると病理が予想つくね。
キュウタロウ : 東洋医学には証が必要なんだっていうのは、なんとなくわかるよ
マツハリ先生 : そうだね。肩こりや頭痛を治すのではなくて、証に従って気血のバランスの崩れを治すとその結果として肩こりや頭痛がなくなるんだ。
キュウタロウ : 病気や症状っていうのは数限りなくあるよね。
マツハリ先生 : 余談だけど世界保健機構(WHO)が定めた国際疾病分類ではいわゆる病気の数は1934年では3500。1954年には約7000だというんだ。新しい病気の発見や分類によって第9回の修正だと約1万って言われているんだ。
キュウタロウ : そんなにあるのか。すごいな。そしたら証もすごい数になるんじゃないの?
マツハリ先生 : 実は逆なんだ。病気の数は多いけど証の数は少ないんだよ。
キュウタロウ : なんでなんで?
マツハリ先生 : そもそも病気の数や病気の種類は関係ないって言ったよね。自分の状態がどういう状態かが大切なんだ。
キュウタロウ : 内因とか外因が下地とかキッカケになければいいってことだよね?
マツハリ先生 : よく理解していたね。偉いよ。誰もが風邪を引くわけじゃない。下地に疲れやイライラがあったり、突然、寒さに備えず体を冷やしてしまうと風邪になる。風邪だけじゃなくて、自分の弱いところに来る。膝に無理が来ていれば膝が痛む。腰が弱ければ腰に来る。
キュウタロウ : 病気や症状がでるのはそういうことなのか。
マツハリ先生 : 痛みだけじゃないよ。耳鳴りがしたり、心臓の動悸がしたり。立ちくらみや目眩(めまい)だって同じさ
キュウタロウ : アレルギーも?
マツハリ先生 : そうだよ。ガンだってアレルギーだって、同じように考えているんだよ。
キュウタロウ : そのバランスの崩れを表現した言葉が証ってことでいいの?
マツハリ先生 : まさにその通りさ。分けようと思えば際限なくわけることはできるけど、すごく細かくわけてもあまり意味がないんだ。
キュウタロウ : どういうこと?
マツハリ先生 : 際限なくわけるということは、つまり病気の数と同じ、いやそれ以上の数になりえる。それでも、対処法というか治療法はそれほど千変万化しなくていいものだからだよ。
キュウタロウ : それじゃ結局、証の数っていくつくらいなの?
マツハリ先生 : そうだなぁ、最少で四つって言えるかな。
キュウタロウ : その四つってどこから来る数字なの?
マツハリ先生 : 陰陽五行説ってあるんだよ。そこから来る数字さ。
キュウタロウ : 五行説なら五じゃないか?
マツハリ先生 : そうなんだけどさ、ここにもルールってやつがあってさ。「心に虚なし、腎に実なし」っていう考え方があるんだよ。
キュウタロウ : それはどういうこと?
マツハリ先生 : 生きている段階で心(しん)、ここでは便宜的に心臓って考えてもいいんだけど、心臓は悪くなることはないですよって考える。そして腎(じん)、腎っていうのは両親からもらった生命力を蓄えておくところって考えるんだ。先天の元気(せんてんのげんき)っていう。両親からもらった火種だから、これはあとから増えることはないって考えるんだよね。だから、実(増える)ことはないだろうっていうんだ
キュウタロウ : なんやら、よくわからないけどそういうのがあるのね。
マツハリ先生 : これは陰陽五行説や五臓について詳しく説明しないといけないところかもしれないね。
キュウタロウ : そうか。そしたらこの追求はここまでにしておこう。五行で五択のうち、一択がルール上なかったことねっていう理解でいいかな。
マツハリ先生 : その通りさ。
キュウタロウ : 証は四つって覚えておけばいいかな?
マツハリ先生 : 極論すると陰か陽のふたつになるだろうけど、これを証とは言わないからね。オーソドックスに考えるなら四択でいい。実はそれに相生相剋ってヤツが入ったり、虚実や寒熱って考え方をいれると、四択じゃすまなくなるんだけれど、これでいいんだ。
キュウタロウ : わかりやすく言ってよ。
マツハリ先生 : 牛丼とか親子丼とか四種類あるでしょ、本来の注文はそれだけなんだけど、牛丼大盛りとか、親子丼に味噌汁つけてって感じかな。こうすると何種類もメニューがあるように感じるでしょ?
キュウタロウ : あぁ、そういうことか。すごくわかりやすい。
マツハリ先生 : 食べ物に例えるとどこまで正しいかわからなくなるけど、私が伝えたいのは、なんとなくわかってもらえたかな?(う~ん、心配だ。。。)
キュウタロウ : 陰陽とか五行っていうのは、東洋医学に深く関係するんだもんね。
マツハリ先生 : 確認だよ。ここで四択というのは、以前、説明した五臓六腑の五臓の中でも、心を除いた四つ。五臓を六臟と考えた場合は心と心包を除いたもの。つまり、肝、脾、肺、腎の四つ。この中でどれが弱っているか、強まっているかで証の呼び名にしているんだ。
キュウタロウ : 五行ってヤツと五臓ってヤツとそれに関係する経絡っていうのは、とりあえず同じものって考えておいていいよね?
マツハリ先生 : そうだね。肝(かん)は肝であり、肝臓であり、肝の経絡って思っていていいよ。厳密には違うけど、証を言う時は臓や経絡、病症などのどれか一つを指しているわけじゃないからね。
キュウタロウ : 証の基本はその経絡の気血のバランスを言うんだよね?
マツハリ先生 : 気血の流れが多すぎる場合は実、気血の流れが少ないときは虚っていうよ。
キュウタロウ : 例えば肝が気血の流れが悪い状態、弱っているときは何て言うの?
マツハリ先生 : 肝虚だね。腎なら腎虚って言う。最後に虚っていう言葉をつけて呼ぶんだ。
キュウタロウ : それじゃ 肺が強いときは?
マツハリ先生 : 肺実だよ。最後に実っていう言葉がつく。
キュウタロウ : そういう言い方するんだぁ。
マツハリ先生 : ここでルールがあってさ、○虚○実って言って虚を先に呼ぶ。
キュウタロウ : 虚と実の両方がある場合がありそうだもんね。
マツハリ先生 : ちゃんと言うと、肝虚肺実証とか腎虚脾実証っていうんだよ。証って言葉を省略して単に肝虚肺実とか腎虚脾実って言うこともあるけど。
キュウタロウ : 実だけだったらなんて呼ぶの?
マツハリ先生 : 実だけっていうのは、そうそうないんだ。どこかしらに虚があるから、実ができちゃうって考える。
キュウタロウ : 逆に虚だけっていうのはあるの?
マツハリ先生 : それはありえるね。初期の変化は虚だけってこともあるよ。例で言うと肺虚ってのはある。肺実って証はない。○虚肺実証ってことになる。
キュウタロウ : 証の呼び方って腎虚肺実とか?
マツハリ先生 : それはない。
キュウタロウ : えー、なんでなんで。わかってきたと思ったのに。
マツハリ先生 : 証の呼び方にももうひとつルールがあってさ弱っている臓の二つのうち、五行でいう子供にあたる臟の名称を呼ぶんでいたんだよ。
キュウタロウ : 、、、と、いうと?
マツハリ先生 : 腎虚っていう段階で、腎と肺が虚していますよってことになるからね。
キュウタロウ : じゃ、肝虚っていうのは、肝、腎の二つだね。だから、子供である肝を呼ぶので、肝虚証か。
マツハリ先生: 確認しておくと、五行っていうヤツがあって、相生相剋関係がある。木、火、土、金、水、そして木に戻るわけだけど、これを五臓でいうと、肝、心、脾、肺、腎、そして肝という循環になるわけさ。
キュウタロウ :証の四つについて、もう一度言ってみて。
マツハリ先生 :腎と肝が虚で肝虚証、心包と脾が虚で脾虚証、脾と肺が虚で肺虚証、肺と腎が虚で腎虚証。これに五行でいう相剋っていう関係に実があれば○実ってくっつくんだよ。
キュウタロウ : なんとなく証というものの名づけ方はわかった気がする。
マツハリ先生 : ここまで来ると陰陽五行について知る必要がでてくるよね。次はその辺を勉強しようか。
キュウタロウ : マツハリ先生、ほんとに難しいよ~
マツハリ先生 : いまは覚えたり、理解することが多いからね。全体像が見えたときに復習すれば、絶対にわかるから大丈夫。難しく思えたり、つまらないのは部分だけで全体を理解しようとしているからさ。
キュウタロウ : じゃぁ、わからなかったら、そのまま進んで大丈夫?
マツハリ先生 : 誰だって完璧に理解しながら進むことは不可能だよ。何度も根気よく読み返してご覧よ。そして質問があればすぐに聞いてみることだね。当然、私の説明だって完璧じゃないから誤解もあるだろう。
キュウタロウ : だったら安心。
マツハリ先生 : 学問っていうのは、興味をもってやるものであって、苦しむものじゃないんだよ。だんだん楽しくなってくるって。その頃には、資格はなくとも東洋医学のエキスパートとして生活の質も向上するんじゃないかな。
キュウタロウ : なんか、ヤル気と不安がいつも混ざるんだよね~。
マツハリ先生 : キュウタロウ君はしっかりやっているって。これからも楽しく行こうよ。証だけじゃなくて、証からわかることが理解できると絶対に楽しいからさ。
第14話を終えて
証の分類・種類に関しては見解が異なることが多いものです。またここでは日本の伝統鍼灸である経絡治療をベースにご紹介していますので、中医学(中国の鍼灸)の分類とも違います。
何が正しいか、ではなくいろいろな視点があるということを第一義にお伝えしようと考えています。
引用する古典や解釈の仕方によって治療体系や言葉の意味することが大きく違うこともあります。伝統があるものだけにその差は本当に数限りなく違いが出てしまいます。
しかしながら、おおよその考え方(=証に基づく治療方針)があるということはとても大切なこと(=適当に鍼を刺しているわけではない)ということはおわかりいただけると思います。
患者さんの側からすれば極論「治れば何でもいい」なのですが、後世に技術や学術を伝える義務を負う鍼灸師の側からすると「治れば何でもいい」ではダメなのです。ですから、治療効果も重要ですが再現性ある治療のために根拠があるほうが望ましいということを鍼灸師自体が自覚する必要があります。
そして、その大きな柱が、今回の証を立てて治療に臨むという手順なのです。
実際、この証の違いにより病態が治るか否かの差が出ます。この事実は大切に後世に伝えたいものでもあります。
マツモト コウイチ
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