鍼灸治療の流れは?

鍼する左手 灸する右手

 

中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です

わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!

#12 鍼灸治療の流れは?

 

キュウタロウ : 今日はマツハリ先生の施術について教えてほしいんだよね。
マツハリ先生: そうだね。施術の流れを知ることは鍼灸の理解がより深くなるからね。

キュウタロウ : こんなこと聞いたら怒られるかもしれないけど、やっぱり施術のルールってあるの?適当にやっているわけじゃないよね?
マツハリ先生: そりゃそうだよ。しっかりとした法則があるさ。適当にやるほうが難しいよ。私たちはしっかりと説明できる自信があるから施術を任されてるんじゃないか。

キュウタロウ : 肩こりに説明ってある? 肩こったから、肩がつらいんじゃないの?
マツハリ先生: 違うんだよ。だいたい症状というものは、下地とキッカケで発症するんだよ。

キュウタロウ : 下地?キッカケ?
マツハリ先生: 下地っていうのは、長年の精神疲労や、寒さ、寝不足、栄養失調や消化不良など、それ自体では症状として現れにくいけど、体に負担をかけてきたことを言うんだ。そしてキッカケというのは、それこそ発症させてしまった理由だよね。急に力を入れたとか、普段より長くパソコンを使ったとか。イライラして頭に血が上ったとか、首を思いっきり曲げて体操したとか。

キュウタロウ : いろんな原因で発症するんだね。
マツハリ先生: こういう要素を東洋医学ではいくつか分けて考えているんだよ。例えば、精神的なことは内因って言う。それとは別に気象条件などは外因っていう。どちらにも属さないようなものを不内外因って言うんだよ。詳しく説明しようか。

キュウタロウ : そうね。まず内因ってどういうの?
マツハリ先生: 七情の乱れっていってさ、感情が極端になったものを言うんだよ。喜び過ぎ、怒りすぎ、憂いすぎ、思いすぎ、悲しみすぎ、恐れすぎ、驚きすぎ。この七個だね。

キュウタロウ : こういうのが、下地とかキッカケになるわけだね。
マツハリ先生: そうだよ。順調に流れている気血を内因や外因などが阻害するから発症するんだ。

キュウタロウ : 次は外因について教えて。
マツハリ先生: 外因は寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪、そして風邪(ふうじゃ)だよ。

キュウタロウ : 邪ってどういう意味?
マツハリ先生: もともとは風、寒、暑、湿、燥、火というのは自然界の気候だから六気というのさ。病の発生原因である六気を六淫という。そして、それぞれの影響を邪って言うわけだよ。

キュウタロウ : 風が吹いていて、これが六気のうちのひとつだよね。これで病気になると風じゃなくて風邪(ふうじゃ)が影響したっていう。風邪っていうのは、六淫のひとつってことで、、、。あってる?
マツハリ先生: すごいじゃないか。そのとおりだよ。

キュウタロウ : よかったぁ~。
マツハリ先生: 最後に不内外因だね。これは飲食物や疲労、過度の夫婦の営み、怪我や傷、中毒や遺伝などを言うんだよ。

キュウタロウ : こういうのが下地なりキッカケになって発症するんだね。
マツハリ先生: 東洋医学、特に鍼灸ではそう考えているんだよ。

キュウタロウ : でもさぁ、自分じゃどれが原因かってわからなんじゃないの?
マツハリ先生: そうだね。だから、それを東洋医学的に調査する必要があるんだ。このような診察、診断を「証を決定する」っていうんだよ。病気になるメカニズムを「病理」というよね。その病理を東洋医学的に明らかにして、それを解消するのが鍼灸師の仕事になるわけだよ。

キュウタロウ : その証の決定というのは、どのようにやるものなの?
マツハリ先生: いい質問だね。証の決定っていうのは、望診、聞診、問診、切診っていう四つの診察方法を駆使して、結果として導きだされるものなんだよ。最初に患者さんにいろいろ質問するっていうのはこの問診っていうやつさ。

キュウタロウ : そういうことか。つまり、四診法があって、証の決定があって、それからようやく鍼を刺すんだね。
マツハリ先生: 「鍼を刺す」というほど刺さないけど、便宜的にここではその表現でいいとしようか。それであってるよ。そして証によって、おおよそ、どこに鍼をしなさい、っていうのが決まってくるわけさ。

キュウタロウ : 肩こりだから、肩に鍼するんじゃないの?
マツハリ先生: 肩だけじゃないよ。

キュウタロウ : えっ?なんで?肩こりに効くツボって他にもあるの?
マツハリ先生: ちょっと違うな。肩こりに効くツボがあるわけじゃない。証に従って鍼をするわけであって、肩こりに対して鍼をするつもりではないんだよ。

キュウタロウ : ちょっと待ってよ。僕が調査したところによると、つまり本屋さんで売ってる本には、だいたい病名が書いてあって、そこを押しなさいって指示があるよ。証なんて言葉は聞いたことないもん。
マツハリ先生: そういう考え方もある。ただ、専門家でも意見の別れるところなんじゃないかな。私でもどこまで効果あるか疑問が残るよ。しかも、鍼やお灸じゃなくて、押したりマッサージするのだとしたら、なおさら効果に疑問があるね。

キュウタロウ : 同じ鍼灸の資格でも考え方が違うのっておかしくない?
マツハリ先生: 前にも言ったけど、鍼灸の国家資格は「やっていいよ」っていう資格だからね。施術方法や考え方が違うってことはよくある話。いや、もっというと同じ施術方法っていうのがあるとすれば、それはそれでおかしな話になるんだよ。

キュウタロウ : よくわからない。。。
マツハリ先生: 毎回、少しずつ違うことがあるんだ。誤解を恐れずに言うと、調理師の資格に近いのかな。中華料理を作るにも西洋料理を作るにも調理師の資格が必要でしょ?

キュウタロウ : そうだね。
マツハリ先生: それでも、いくら調理師の資格があるからって、絶対においしい中華料理が出てくるとは限らない。作っていいよっていう資格であって、おいしい中華料理が作れますよって保証している資格じゃないからね。それに、同じ料理の名前でも入っている野菜やお肉も違うし、切り方や調理方法まで、実にいろいろな方法があるじゃないか。

キュウタロウ : そうか。そう言うわれればなんとなく納得できるかな。
マツハリ先生: しかも、人間の体を相手にしているわけさ。料理だったらほぼ同じように作ることが可能だけど、刻一刻と変化している体の調子をよくするには、毎回、同じようにやってバランスが取れるとは限らないんだよ。

キュウタロウ : そこまで言われると、そうだね。
マツハリ先生: なんとなくでも、わかってくれればうれしいな。だから、流派みたいにいろいろな見方、考え方が存在するんだ。資格を取ったからって全員が同じことをするとは限らないんだよ。

キュウタロウ : わかった。じゃそういうことで続きを聞かせてくださいな。
マツハリ先生: いいかい、ここでは、辛い症状があるから患者さんと言うけど、鍼灸院に来る人は病人だけじゃないんだ。より健康でいたい人が来るんだよ。だから、患者さんとは呼ぶけど病気があるとは限らないってことを知っておいてね。

キュウタロウ : うん。わかったよ。ゲストとか顧客とかって言うのもおかしな感じがするしね。
マツハリ先生: それじゃ続けるね。患者さんの主訴、つまり今一番困っていることを聞いた。この場合は肩こりだとしよう。基本的なことは予診票に書いてもらう。住所や年齢、不安な点など事前にね。それから鍼灸師は施術することになるんだけど。。。

キュウタロウ : ここで患者さんは薄着になったり、着替えを用意してもらってベットに横たわるわけだね。
マツハリ先生: そうだね。それから東洋医学的な診察診断をしなければならない。この結論を証の決定と言うんだ。本来、お医者さんなら病名の確定だよね。ただ鍼灸院では病名は参考になるけど、それほど重要な位置づけではないんだ。

キュウタロウ : どうして?病名は重要じゃないの?
マツハリ先生: 同病異治といって、同じ病気でも違う処置をすることがある。また異病同治といって、病名が違うけど、同じような処置をすることがあるんだ。そして、その判断は病名ではなくて証によって影響されるわけ。だから、証の決定が病名の確定より優先するんだ。

キュウタロウ : それじゃなに?病名がわからなくても証が決まれば処置できるってこと?
マツハリ先生: そうだよ。病気や病名っていうのは、証という根っこの変化が表面化したものだって考えればわかりやすいかな。

キュウタロウ : 病名がわからないんじゃなくて、それほど必要じゃなのか。。。
マツハリ先生: 「未病を治す」と言って、証に従って処置できれば、病気として表面化する前に防ぐことが可能なんだ。実はこれ、すごいことなんだけどね。

キュウタロウ : 単純に血流がよくなるから病気にならないようになるのかと思ってた。。。
マツハリ先生: そうとも限らないんだよ。いまの体に無理がないようにする必要がある。そのバランスの崩れが証という形で表現されるんだ。

キュウタロウ : 証の話しも長いよね?
マツハリ先生: それは別なときに言うからご心配なく。今日は治療の流れを説明するだけだよ。

キュウタロウ : わかった。バランスの崩れが証という表現になる、と。
マツハリ先生: そして、その崩れたバランスを整える法則があるわけ。さらに言うと何のバランスが崩れたか?ってことだよね。

キュウタロウ : うんうん。
マツハリ先生: 鍼灸では、そのバランスは気血のバランスが崩れたっていう表現になるんだよ。ひとつは気が多くて血が不足するとか、気が不足して血が停滞しているっていう見方だね。気血のバランス。もうひとつはどこの経絡に気血が多くて、逆にどこの経絡に気血が少ないかっていう表現。つまり経絡のバランス。

キュウタロウ : 気血っていうのもあんまりよくわからないね。
マツハリ先生: 実際にはエネルギーって言葉に置き換えてもいいよ。目に見えるものではなくて概念的なものだから。血の停滞っていっても本当に血液が血管に詰まっているわけじゃないからね。

キュウタロウ : まったく誤解しちゃうよね。
マツハリ先生: そういういろいろなバランスを取るために必要な法則に従って、必要なだけ鍼をしたりお灸をするんだよ。逆に言うと鍼やお灸で気血や経絡のバランスが取れるってことなんだ。

キュウタロウ : そういうことか。
マツハリ先生: いいかい、ここまでの確認だよ。鍼灸師のやることは症状の確認、四診法、それによって証の決定する。当然、証が決まるころには内因とか外因とか何が影響していたかおおよそ見当がついているわけ。それが決まるとルールに従って鍼やお灸のやる場所がだいたい決定しているのさ。素問や難経っていう本に治療のためのいろいろなお約束ごと、ルールがある。そしてその目的の場所に鍼やお灸をする。次に鍼やお灸が適切だったか脈診や皮膚の変化などで確認する。肌つやが良くなり、脈が良い状態になったら治療終了。これを繰り返していくとストレスがあろうが天気が悪かろうが常に血流がよい状態が保たれるようになる。

キュウタロウ : なるほどね。
マツハリ先生: 治療の流れっていうのはこんな感じなんだよ。

キュウタロウ : 血流が良くなるっていうのも、実は自律神経ってやつが整うから良い方に変化するって研究結果があるんでしょ?。
マツハリ先生: そうだよ。よく知っているね。痛みでもアレルギーでも、人体にはもともと体を治そうっていう力があるからね。その機能を最大限に発揮させるために良い環境を作っていくんだ。私たちは気とか血という言葉を使うけど、西洋医学では自律神経っていう表現になるかもね。

キュウタロウ : でもさぁ、1回やっても効果が続かないんじゃないの?一生やり続けるのは大変だよ~。
マツハリ先生: 人間の体っていうのは、つらい状況に慣れてしまうんだ。例えば痛いとか硬いっていうのは、長い間その状況が続くと痛いのが当たり前、硬いのが当たり前っていうふうになる。鍼灸治療っていうのは、本来はそういう状態じゃないんだよ、って体に教えてあげることなんだよ。

キュウタロウ : それが鍼灸治療なのか。
マツハリ先生: そうやって、続けていくと体のほうも、もともとこういう良い状態なんだって思い出すようになるんだ。

キュウタロウ : そっか。
マツハリ先生: 一進一退ではなくて、必ず良い方に向かうっていうのはこういう理由があるんだよ。時間はかかっても必ず体調がよい時間が増えていくものなのさ。

キュウタロウ : マツハリ先生のところは子供の患者さんも多いよね。風邪(かぜ)とか熱でも来るでしょ?
マツハリ先生: そういう子は多いよ。気の流れが早いのが子供だから症状の変化、そして回復も早い。

キュウタロウ : へぇ~そうなんだ。
マツハリ先生: 気の流れが早い人は良くなりやすいけど悪くもなりやすいんだ。お年寄りは逆だね。歳を重ねると気の流れがゆっくりになる。

キュウタロウ : もしかして、だから動きもゆっくりなの?
マツハリ先生: そうなんだよ。すごいところに気がついたね。お年寄りの動きがゆっくりなのは、気の流れがゆっくりなのと関係あるんだよ。

キュウタロウ : 今日はいろいろ覚えることがあるなぁ~。
マツハリ先生: おおよそ治療の流れがわかっただけでも十分じゃないか。細かい点はおいおい説明するからさ。

キュウタロウ : わかった。バリバリ勉強するぞ~。
マツハリ先生: おやおや急にどうしたんだか。でもまぁヤル気があることはいいことだね。

 

第12話を終えて

 

まず最初に断っておく必要がありますが、調理師の資格は料理をして良いという免許ではありませんね。飲食店に必要なのは「食品衛生責任者」の資格です。ここでは治療法や考え方が料理の世界でいう洋食、和食、中華料理など多彩なものと同じく多岐にわたるということを表現したかったためであり、その点、ご理解いただければと思います。

いまでも「鍼を刺せば治るであろう」という推測のもと学校では刺鍼のテストが行われます。

これは治療のテスト(効果があったか否か)ではありません。

消毒や衛生観念、刺鍼技術という形式を守れるかどうかというチェックです。効果の有無で資格が取れる・取れないということではないのです。何度も書きますが、たどたどしく下手でも(安全に)手順さえ守っていれば実技で落ちる人はいません。

美味しくない料理店があるように、治療効果がパッとしない治療院もあるわけです。

そうならないように資格保有者の自覚が求められるのですが、勉強している人とそうでない人の差が著しく感じるのは筆者の単なる偏見なのでしょうか。それでも、社会はかなりの精度でダメな治療院を知っています。そういう淘汰が進めば本物の鍼灸が広まる土台になります。一般の方の厳しい目こそ治療家のレベルを上げる唯一のちからなのかもしれません。(「歳のせい」とか「一生付き合いましょう」っていう言葉にくじけませんように!)

 

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マツモト コウイチ

東洋思想研究家でありUdemy講師でもあります。開業15年超の鍼灸師です。ビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を東洋思想家として見渡しています。すべての投稿に関して講義講演が可能な内容となっています。居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。

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東洋思想研究家でありUdemy講師でもあります。開業15年超の鍼灸師です。ビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を東洋思想家として見渡しています。すべての投稿に関して講義講演が可能な内容となっています。居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。