四診法って何だ?

鍼する左手 灸する右手

 

中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です

わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!

#13 四診法って何だ?

 

キュウタロウ : この前、マツハリ先生が教えてくれたのは治療の流れなんだけどさ、その中で四診法っていうのがあるって言ったよね?それについて教えて欲しいんだけど。
マツハリ先生: いいよ。四診法っていうのは、気血の調整をするために証というものを決めなければならないんだけど、それを決める手段になる診察診断方法のことだよ。

キュウタロウ : それを詳しく。。。
マツハリ先生: そうだね。四診法っていうのは、四っていうくらいだから四種類のみかたがあるって考えてみてね。

キュウタロウ : 四は4つって意味ね。
マツハリ先生: ひとつづつ説明しよう。まず望診。望診は目で見て診察することだね。

キュウタロウ : 見て観察するのか。
マツハリ先生: そう。体調の良し悪しをみる場合に「顔色がいい」とか「顔色が悪い」とか言うでしょ?

キュウタロウ : いういう。
マツハリ先生: それだけじゃないんだけど、姿勢や歩き方、表情や眼つきなども見て観察するんだよ。

キュウタロウ : いろいろチェックするところがあるんだね。
マツハリ先生: ただ見るだけじゃないんだ。顔の色や覇気まで確かめる。

キュウタロウ : 顔色って血色がいいとか?
マツハリ先生: そういうのもあるけど、具体的に青味がかっているとか、やけに赤ら顔だな、とか。土気色だなとか。五行ってヤツで勉強するけど、青、赤、黄、白、黒の五色に偏っていないか確かめるんだよ。

キュウタロウ : 短時間でそういうこともやるのか。。。
マツハリ先生: ここでは、視診って言わないで望診っていうのが東洋医学らしい実に深い言い回しなんだよ。

キュウタロウ : 違いがあるの?
マツハリ先生: 視診っていうのは、ただ見るだけ。間違い探しに近いよね。望診っていうのは、雰囲気とか様子とか、眺めるっていう感じかな。なんとなくおかしいなって感じ取る見方だよね。

キュウタロウ : 大局観っていうのが非常に大切だっていうもんね。それに似た表現なんだろうね。
マツハリ先生: そうだと思うよ。そして次は聞診。聞くって書くけど、実は音を聞くだけじゃなくて、匂いを嗅ぐのも含まれるんだ。

キュウタロウ : 聞診は音や匂いを調べるのか。
マツハリ先生: 音は声量や声の高低、滑舌や口調というのもヒントになるんだよ。匂いに関しては甘い匂いとか、酸っぱい匂いとか。

キュウタロウ : 滑舌とか口調もヒントになるの??
マツハリ先生: 心(しん)が悪い人は滑舌が悪かったり、肝(かん)が悪い人は命令口調が多かったりするんだ。

キュウタロウ : それに匂いまで違いがでるの?
マツハリ先生: 糖尿病の人は甘い香りがする場合があるよ。アトピーだって独特の匂いがある。それに体臭がきつかったり、すごく香水を使っているのになんとも思わない人もいる。正常という範疇から外れている場合は病的な要素が隠れているって推測するんだよ。

キュウタロウ : なんか、やっていることが探偵だよね。
マツハリ先生: ははは。探偵っていうのは、面白い表現だね。犯人を追求するのも病気を発見するのも、たしかに似ているかもしれないな。

キュウタロウ : 次は何だっけ?
マツハリ先生: 問診だね。問診っていうのは、質問すること。いつから痛いの?とか、どうしてそうなったの?とか。

キュウタロウ : これはお医者さんでもやっているね。
マツハリ先生: そうなんだけどさ、ちょっと特殊な質問をしたりするんだよね。

キュウタロウ : 特殊ってどういうこと?
マツハリ先生: いっけん関係無いような質問をするってことさ。

キュウタロウ : 例えば?
マツハリ先生: う~ん、そうだな。例えば肩こりの患者さんがいるでしょ?その人に普段は足が冷えませんか?って聞いたりする。

キュウタロウ : 関係ないじゃん。
マツハリ先生: 、、、だから、肩こりには直接関係ないような質問をしちゃうわけさ。

キュウタロウ : そっか。
マツハリ先生: でもね、肩こりに関係ないようだけど実は関係あるんだよね~。

キュウタロウ : ちょっと、なんで?もったいぶらないで教えてよ。。。
マツハリ先生: 肩こりの原因になる場合があるからさ。前に話しをしたかもしれないけど、内因や外因、不内外因が影響していないかって質問しているんだよ。

キュウタロウ : 内因っていうのは、過度の感情だよね?外因っていうのは天気だっけ?その他の原因、疲れとか寝不足が不内外因だよね。。
マツハリ先生: そう。例えば冬に雪道をたくさん歩いて足を冷やせば、気血のバランスを崩すわけ。それによってのぼせて、汗がでなければ肩や首のまわりが苦しくなることもある。そういう病理っていうのを想定して、足が冷えていないか質問しているわけさ。

キュウタロウ : 違ったら?
マツハリ先生: 違ったら、他の質問をするまでさ。パソコンの使いすぎじゃないですか?とか、イライラ怒ってばかりいませんか?とか。

キュウタロウ : そういうヒントを集める質問をするわけか。
マツハリ先生: そうだよ。病理がよくわかっていると、的確な質問と素早い理解が可能になるんだよ。

キュウタロウ : いまのが3つ目だから、次が最後だね。
マツハリ先生: 最後は切診(せっしん)。

キュウタロウ : あらら、脈診はどこに行ったの?あれだけ脈だ、何だって言っていたから脈診だと思うじゃないかっ。
マツハリ先生: いや、切診の「切る」っていうのは「確かめる」という意味で使われている言葉だよ。この切診のなかに脈診が含まれているの。脈診の他にも腹診っていってお腹の皮膚のザラつきで診断したり、経絡を直接さわって温度や皮膚のツヤを診る切経(せっけい)っていうのがある。また、舌を観察して診断する方法も望診というより切診に入れたほうが意味としてはいいだろうね。

キュウタロウ : そうなのか。切診には、脈診だけじゃなくて、他にもいろいろあるのか。
マツハリ先生: 切診を全部駆使する人もいるけど、脈診がメインで舌診や腹診、切経が補助的に使う人が多いんじゃないかな。そもそもこの切診ができない人が多いのも現実だけど。

キュウタロウ : 切診ができない人が治療するの?
マツハリ先生: 必要ないって本人が思えば、必要ないからね。でも、本来の鍼灸の古典にはこれらの診察診断方法は必要だから書いてあると思うけどさ。

キュウタロウ : まぁマツハリ先生は何度も同じ鍼灸師でも、やっていることが違うって言っているもんね。
マツハリ先生: これら四診法っていうのは、ひとつひとつの技術を体得するだけでも、ことこまかな約束ごとを覚えなければならないんだ。それでも、逆に言うと、約束ごとをしっかり覚えて、順序立てていけば誰でもできるようになる。わかるようになるんだよ。

キュウタロウ : つまり、ちゃんとした決まりがあるってことで雰囲気でなんとなくやっているわけじゃないってことだね。
マツハリ先生: そうだよ。雰囲気でって、失礼な。そんな治療は治療って言わないんだよ。

キュウタロウ : ごめんなさーい。
マツハリ先生: 脈診をしただけで、病理が手に取るようにわかると患者さんは驚くけどね。あまりに脈診がインパクトがあるから、他の望診や問診が必要ないような誤解を与えてしまうけど、そうじゃないんだよ。

キュウタロウ : 歩く姿なんて観察されているとは思わないもんね。
マツハリ先生: 仰々しく、診察しているぞ~っていうのは、あまり上手じゃないね。注目するところ、チェックするところを確実に、自然に診ていくこと。これが一番スマートなやり方なんじゃないかな。

キュウタロウ : マツハリ先生は変な美学があるね。
マツハリ先生: 「変な」は余計です。

キュウタロウ : そうだった。変なは余計でした。鍼灸師は職人さんだから、美学があって当然だよね。
マツハリ先生: 具体的な四診法は必要なら話すけど、概要を知る分には、これくらいでいいんじゃないかな。

キュウタロウ : そうだね。ありがとう。
マツハリ先生: 脈診についてはまた興味が出てきたら説明するね。

 

第13話を終えて

 

今回はちょっと専門的なお話しまで言及しました。しかしながら、このような考えがあって鍼灸施術を行っているということを理解していただきたいと思います。

「硬いところに鍼を指していけばいい」というのは間違いです。

一時的に柔らかくなったという指標は、コリには良いでしょうが、全身や内臓まで含めた体調には良い方向に続くか疑問があります。

歴史あるものにせっかくの理論体系があるのですから、知らないまま自分勝手に「鍼は刺すもの」「刺したら柔らかくなるに違いない」というのは正しい道とは言えません。

本質を理解せずに、形だけ真似していくと形骸化して、やがて衰退します。音楽でも絵画でも、舞踊でも伝統ある世界の衰退は形だけの真似による実害です。鍼灸師は東洋思想の専門家なのですから、そこからしっかり理解してほしいと切に願うものです。

 

 

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マツモト コウイチ

開業17年超の鍼灸師です。鍼灸の普及啓蒙を実践するYoutubeも始めました。ブログでは東洋医学を中心にビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を見渡しています。東洋思想研究を深め居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。

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開業17年超の鍼灸師です。鍼灸の普及啓蒙を実践するYoutubeも始めました。ブログでは東洋医学を中心にビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を見渡しています。東洋思想研究を深め居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。