人類は数多くのパラダイムシフトを体験してきた。火の使用、車輪の発明、火薬、蒸気機関、電気、半導体…。
ビットコインは何を変え、何を生み出すのでしょうか。人類はさらなるプロペラント(推進力)を得てどこに向かうのでしょうか。
第5話 2011年P2P開発者の不運、日本の不運。
ビットコインとは直接関係ないのですが、日本ではWinnyというファイル共有ソフトが話題にあがった時期があります。ちょうど2011年のことです。
Winnyは2002年に開発されたソフトでP2P(ピアトゥーピア)という技術を使用しています。このP2Pとはインターネットでサーバを介さずにパソコン同士で直接ファイルをコピー(共有)するシステムです。
この技術によって中央のサーバを必要としないネットワークの確立を可能にしました。中央のサーバを必要としないということは、システム上の障害に非常に強く、一度稼働を始めたネットワークはそう簡単には止まらないという意味で格段に堅牢性が向上したシステムなのです。
このP2P技術を使用したファイル共有ソフトがWinnyなのですが、ファイル共有という仕組みを悪用して映画やソフトウェアといったコンテンツが海賊版として出回るようになってしまいました。
この件を重く見た京都府警は2004年にこのファイル共有ソフトの製作者である金子氏を著作権法違反として逮捕、起訴しました。
P2Pソフトの利用者を違法とする判決は世界的に珍しいことではありません。しかしながら、開発者が逮捕されたのはこの事件が初ということもありIT業界関係者のみならず、世界的に注目を集めました。
ちょうど銃規制の議論が活発になっていたアメリカでは、「違法コピーができる道具の開発者が逮捕されるなら、銃の製造・販売業者はすべて殺人幇助だ」とハーバード大学のローレンス・レッシグ教授が主張したとされています。
金子氏のWinny裁判は一審の京都地裁では有罪を。二審では逆転無罪となり、2011年に最高裁が検察側の上告を棄却して無罪が確定しました。
結果的に無罪となった裁判ですが、このような技術に対する規制、または政府や当局の見方はコンピューターサイエンスの発展を大幅に遅らせ、技術者や研究者を大いに萎縮させたといいます。
ある人に言わせれば技術的な面で10年遅れたと言うのです。
それだけではありません。
世界ではその間にP2P技術を活用したIP電話「Skype」が国際電話の際の標準的な位置を占めるまでになりました。そしてマイクロソフト社に85億ドルで買収されるまで大きく成長し、成功したことは有名です。
反面、日本のP2P技術は壊滅し、Winnyの改良禁止による凋落のみならずウイルスの蔓延、日本発の検索エンジン開発に及ぶまで広い範囲に衰退、停滞の力が加わりました。
日本でのビットコインの扱いも当初、政府が突然規制をしたり、立法により違法になるのではないかという憶測がありました。憶測があるけで十分マイナスな効果でしたが、日本では2017年のビットコイン関連法案(仮想通貨交換業者を登録制にするなどを盛り込んだ「銀行法施行令等の一部を改正する政令等」のこと)が成立するなどかろうじて世界に取り残されずに済みました。
特に私はWinny事件のこともあり、日本人が世界と渡りあうには、テクノロジーだけでなく、それを阻害する要素を減らし見守ることも大切だと考えています。
ビットコインは、その電気代の安さや情勢不安の土壌が相まって中国でのマイニングが主流でした。テクノロジーとしてはアメリカやイスラエルが主流でした。最近では、ビットコインの取引が日本を主戦場にしているということで、少なからずの発言権を確保できているようにも思えます。(2017年当時)
首の皮一枚残った感じですが、電気代でも技術でもなく、投資家としての地位を確保するだけでも、未来への存在感は大きいと思います。これからもビットコインやブロックチェーンという革新的なテクノロジーを活用して世界を引っ張っていくために投資からでも構わないので日本の存在感が高まればいいなと思うのです。
ただ、日本では税制面で雑所得扱いとなり取引する上で株やFXとは違い大幅に投資家に不利な状況になります。この状況が解消しないようでは、日本政府は暗号通貨の発展をまじめに考えているとは言いにくい状況であり改善が待たれます。
(つづく)
マツモト コウイチ
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