経絡の数と未発見ロマン?

鍼する左手 灸する右手

 

中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です

わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!

 

#7 経絡の数と未発見ロマン?

 

キュウタロウ : 12経絡が正経ってことを聞いたんだけど、その他にも経絡があるの?
マツハリ先生 : あるんだよ。それが奇経というヤツ。

キュウタロウ : じゃその奇経ってヤツについて教えてね。
マツハリ先生 : そうだね。じゃぁ、説明する前に新しい言葉を覚えておいてね。この前は経絡の気の通り道って長く言ったけど、この流れのことを流注(るちゅう)って言うんだ。

キュウタロウ : うん。わかった。
マツハリ先生 : 流注、つまり気血の流れる方向は一方通行なんだよ。手にある陰経は手の末端に向かう。手にある陽経は体に向かう。足の陰経は体に向かう。足の陽経は足の末端に向かって流れているんだ。

キュウタロウ : えー、なんかごちゃごちゃしてわからない。
マツハリ先生 : ではね、わかりやすく言うね。まずキュウタロウ君がバンザイしてみて。

キュウタロウ : うん。ばんざーい。はい手を上げてみたよ。
マツハリ先生 : その格好で上から下に向かうのが陽経。下から上に向かうのが陰経の気血の流れる方向、流注だよ。

キュウタロウ : おぉ。一気にわかりやすくなった。すごい。
マツハリ先生 : これも陰陽ということを勉強すればもっと納得するからね。いずれもっと感動すると思うけどこれは別の時にね。

キュウタロウ : わかった。じゃ、奇経のお話してね。そういえば、この前は経絡に属していない経穴を奇穴って言ったよね。
マツハリ先生 : 奇穴とは関係ないんだけど、本流では無いっていう意味で漢字の「奇」が使われているようだね。

キュウタロウ : 正攻法と奇襲って感じなのかな?
マツハリ先生 : そうだね。東洋医学に限らず東洋思想ではそういう発想、つまり常套手段と例外っていう考え方は必ずセットになっていると言っていいほどよくでてくる話しだね。

キュウタロウ : その奇経っていうのも12個あるの?
マツハリ先生 : いや、奇経は8個だよ。十二正経に対して奇経八脈っていうんだ。

キュウタロウ : 八脈か。
マツハリ先生 : 正経が大きな川だとすると、奇経は湖のような存在なんだよ。

キュウタロウ : 湖ねぇ。
マツハリ先生 : 絶えず循環しているというより、正経という川が干からびそうになれば湖から水である気血を補う。正経という川があふれて氾濫しそうになれば、湖が貯水池の役目をして氾濫を防ぐっていう存在なんだ。

キュウタロウ : うまくできているんだね。
マツハリ先生 : 奇経は常に存在するものではなく、非常事態のときに緊急避難的に活躍するって考えるとわかりやすいかな。それとさっき説明し忘れていたけど、経絡が臓腑と関係あるって言ったけど、手足の分類をくっつけて呼ぶこともあるんだ。

キュウタロウ : 手足?
マツハリ先生 : 太陰肺経っていうのが正式名称って言ったけど、手の太陰肺経って言うことがあるよ。まぁ足には太陰肺経はないから、太陰肺経って言ったら100%絶対に手なんだけどね。当たり前すぎていい忘れちゃった。

キュウタロウ : なんで急に思い出したの?
マツハリ先生 : いや、なに、手に陽経の三本、陰経の三本の経絡がある。それと同じように足にも陽経三本、陰経三本があるっていう大切なことを忘れていたからさ。

キュウタロウ : 手足に陰陽三本ずつだから、十二経絡なんだね。
マツハリ先生 : それと人体を正面から分けるとするでしょ、例えば鼻から顎、首を通って胸、おヘソっていうように、まっすぐ分ける。これを正中線って言うんだ。

キュウタロウ : うん。正中線って言うんだね。
マツハリ先生 : その正面の正中線を任脉(にんみゃく)っていう経絡がある。そして背中側の正中線、つまり背骨の上を督脈(とくみゃく)っていう経絡があるんだ。いづれも奇経八脈のなかの二つなんだけどね。

キュウタロウ : この二つは特別扱いなの?
マツハリ先生 : まぁそう言ってしまえば、そうかもね。この二つは正中線という独特の流注を持っているからね。古典でもこの奇経の二つを正経と数えて十四経絡とした古典もあるくらいだからね。『十四経発揮』とか言うけど。

キュウタロウ : 独特の流注があるのは奇経の中ではこの二つなの?
マツハリ先生 : そうだね。残りの六つは正経の流注を借りているって言い方をすればいいかな。

キュウタロウ : そうなのか。
マツハリ先生 : まぁこれは鍼灸師になってから必死に理解すればいいことだからね。キュウタロウ君が理解するのはすごいことなんだよ。

キュウタロウ : そんなにほめると、困っちゃうよ。えへへ。
マツハリ先生 : 鍼灸師でも知る人ぞ知るってお話をしようか。せっかくの余談ついでだから。

キュウタロウ : もったいぶらずに教えてよ。
マツハリ先生 : これはあくまでも私の憶測だけどね。。。

キュウタロウ : なになに???
マツハリ先生 : 8という数と12という数で何かピンとこない?

キュウタロウ : う~ん、う~ん。。。こない。
マツハリ先生 : そうか。無理もないね。じゃ私の憶測を言おう。人間は点じゃないよね?面でもない。立体なんだよ。

キュウタロウ : そんなの当たり前じゃないか。何が言いたいの?
マツハリ先生 : つまり、この8という数は立体でいう頂点の数。そして12というのは辺の数なんだよ。

キュウタロウ : それで?
マツハリ先生 : えー、いやだなぁ。少しは感動するもんじゃないのかいっ。私がこの数に気がついたときはかなり驚いたものなんだよ。例えば、ある辺に影響する頂点というのは2つあるだろ、これって他の二辺との接点だよね。だから、川の流れに過不足が生じた時に、この貯水池である頂点が…。

キュウタロウ : そうね、そうね。なんか、とっても意義深いってことはよくわかったよ。
マツハリ先生 : なんだよキュウタロウ君、こんなに熱くなっている自分が恥ずかしいじゃないかっ。

キュウタロウ : マツハリ先生の言うとおり立体を覆うには8個の頂点と12個の辺が必要。それになぞられて8個の奇経と12個の正経があるっていう主張も理解できるよ。
マツハリ先生 : これって経絡を深く理解する上で、大きなヒントになると思うんだけどなぁ。

キュウタロウ : なんか、ロマンなんだろうね。
マツハリ先生 : そう。キュウタロウ君は、非常に良い事を言ったね。これはロマンだよ。うん、ロマンだ。

キュウタロウ : 他にもそういうワクワクする話しってないの?
マツハリ先生 : ないこともないよ。

キュウタロウ : もったいぶらずに教えてよ。
マツハリ先生 : せっかくだから、よく聞いてくれよ。もともと東洋医学っていうのは、古典っていう昔の本みたいなヤツに書かれているわけだ。正確に言うと、木簡とか竹簡っていって、木や竹の短冊をすだれみたいに、巻物にしたヤツなんだけれど、その古典っていうのは、今でも発掘される可能性があるんだよ。

キュウタロウ : ちょっと待って。発掘ってどういうこと?
マツハリ先生 : 昔の医学書は、金銀財宝と同じくらいすごい価値あるものとされていたんだ。だから、皇帝や偉い人がなくなるときに宝物と一緒に埋葬したんだよ。

キュウタロウ : そうなんだ。
マツハリ先生 : そう。それが何千年という時を越えて、広い広い中国の土地からお墓が見つかることがあるんだ。

キュウタロウ : つまり、そのようにして、まだ見つかっていない古典が発見される可能性があるっていうんだね?
マツハリ先生 : それだけじゃないんだよ。かもしれないっていう推測ではなくて、見つかっていない古典が実際にあるんだ。

キュウタロウ : え?なんで、みつかっていないのに古典があるってわかるの?
マツハリ先生 : 漢書芸文志という本の目録集が存在しているんだよ。これによると医学に関する本は6タイトルあるんだ。黄帝内経十八巻、黄帝外経三十七巻、扁鵲内経九巻、扁鵲外経十二巻、白氏内経三十八巻、白氏外経三十六巻だったかな。

キュウタロウ : さすが、鍼灸のオタクともなるとよく覚えているものだね。。関心しちゃう。
マツハリ先生 : それって褒めてないでしょ。これらの中で、黄帝内経っていうのがあって、それが二つに分かれている。黄帝内経素問と黄帝内経霊枢だ。素問は内科について。霊枢は鍼灸に特筆して言っていると言っていいかな。

キュウタロウ : 他の本は?
マツハリ先生 : それがロマンなんだよ、キュウタロウ君。実は黄帝内経しか見つかっていないんだ。それ以外の扁鵲、白氏のタイトルは一切見つかっていないんだよ。

キュウタロウ : 残念だなぁ。
マツハリ先生 : 扁鵲っていうのは、昔の名医の名前。実在したかは謎とされているけれど、他の本の著者としても出てくる名前なんだ。白氏に関してはわからない。黄帝っていうのは、伝説上の王様だよね。なぜ黄色なのかっていうのも陰陽五行っていうヤツがわかれば納得できると思うから、そのうち話すね。

キュウタロウ : それにしても、見つかっていないものばかりだなぁ。
マツハリ先生 : 黄帝内経だけでも、すごい情報量だからね。他の本が出土したらワクワクしちゃうよ。それに内経っていうものが何を指しているかによっても興味深いことがわかるんだよ。

キュウタロウ : どういうこと?
マツハリ先生 : もし、現在伝わっている黄帝内経の内経っていう意味を今の医学でいう「内科」として考えると外経っていうのは「外科」だよね。だから新しい外科治療の技術に道が開かれるかもしれない。

キュウタロウ : うんうん。
マツハリ先生 : 内経の意味を「正統派」と考えると外経の意味は「亜流」ってことだよね。つまり、普通はこうしますが、例外的にはこうやったほうがいいですよ、というのが書いてあるかもしれないんだ。

キュウタロウ : わぁー。そう思うと、なおさら見てみたいなぁ。
マツハリ先生 : そうだろ。これから出土したり、出土したものの分析が進めば、東洋医学の道がさらに広がる可能性もあるわけだ。

キュウタロウ : すごいすごいっ。
マツハリ先生 : まぁこれをロマンと言わずして…。お、おぃキュウタロウ君どこ行くんだい?

キュウタロウ : こんなことしている場合じゃないよ。中国行って掘ってくるっ!
マツハリ先生 : あのさぁ、中国とてつもなく広いけどね、、、。

 

 

第7話を終えて

 

黄帝内経のほかに、扁鵲内経や白氏内経がもし見つかったら…というのは、私が鍼灸学生だった20年前の青年の頃は胸をときめかせたトピックでした。

また鍼灸の法則性は数学と相性が良いらしく立方体の辺と頂点の数は、経絡の正経と奇経の数と一致すると気づいたときには、雷に打たれたような衝撃でした。

いまでも、ある種の予測を持っており、人体のどこかのツボの位置はきっと黄金比や白銀比で構成されているのではないか?と思っています。ただ、それが無数にあるツボの数から言ってどことどこの距離が対比になっているのか、数学的な教養もないので足がかりがなにもないのが現状です。ただ仮説として数学的なものがあるという推測はあながち間違っていないと思っています。(花弁の数とフィボナッチ数のような関係がいずれ人体のツボや経絡で証明できたら…それはそれはロマンですね)

鍼灸にはロマンがいっぱいです。多くの臨床家、研究者が増えるといいですね。

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マツモト コウイチ

東洋思想研究家でありUdemy講師でもあります。開業15年超の鍼灸師です。ビジネスから教育、エンターテイメントまで多くの人の成功と挑戦を東洋思想家として見渡しています。すべての投稿に関して講義講演が可能な内容となっています。居敬窮理(振る舞いを慎み、道理をきわめて、正しい知識を身につけること)を実践していこうと思います。

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