今回は主に一般向けの書籍をご紹介します。マクロ経済を個人で意識する必要はないといいますが時代の潮流として経済の根本である資本主義が次の段階へ差し掛かっているといいます。未来を予見するために役立つ智慧があるのならぜひ知っておきたいものと思うのです。
私が大切にしている本ですので評価は★4くらいなのですが、10年前に書かれたものなので紹介するうえで1段階評価を下げました。入門的にお読みいただき最新の書籍とあわせると田坂先生のメッセージがよく伝わると思います。
『目に見えない資本主義』
★★★☆☆(3/5) 鍼灸師向け:高い視点はまさに東洋思想的な思索の連続。
★★★☆☆(3/5) 一般向け:田坂先生の入門的著書として経済活動を予見したもの。
『目に見えない資本主義』
社会・経済を予見する正しい作法
著者、田坂広志(たさかひろし)氏は多摩大学大学院教授。ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムの国際アドバイザリーボードでもあります。
接点
本書の特筆すべきは2009年の初版となります。いまから10年前の出版にかかわらず本質は色褪せず徐々に世界の潮流を本書がガイドブックのような視点を与えてくれます。
田坂先生は仕事の思想や経済の動向などを客観的に予見し、またその視点や方法を教授してくれた私にとってとても貴重な人物です。
世界を変えようと思ったら、現状を理解しておかなければならず、何をどうするかという実学に至る過程の多くを学びました。
操作主義から複雑系へ
(略)では、この「複雑系経済」の最大の問題は、何か。
それも、明確である。意図的に操作できない。
それが最も深刻な問題である。
すなわち、複雑系経済とは…(略)
本書の序盤では当時、世界に衝撃を与えたリーマンショックを例に引いて経済活動の流れを「操作手技」から「複雑系」への移行にあると考え、分析・予見しています。
何よりも単なる事象の分析ではなく、高い視点から見ているために他の事象へ敷衍・応用が可能なのです。ですから、過去のことと切り捨てるのではなく、そこから汲み取るべき深い学びがあるのです。
例えば、先ほど述べたように、もし我々が、直接的に「知識」を持っていなくとも、優れた知識を持つ企業や人物との良い「関係」があれば、容易にその知識を借りることができる。従って、多くの企業や人物との良い関係を持っているということ、「関係」という資本を豊かに持っていることは、ある意味で、間接的に豊かな「知識資本」を持っているということに他ならない。
何度も書きますが、2009年にすでに説明されていた言葉です。
いまでは評価経済という言葉も徐々に耳にするようになりましたが、資本という言葉が単なる資産を意味するのではないということをすでに明示していたのです。
それは、SNSで多くのフォロワーを抱えることによって、もともとは芸能関係の仕事をしていなくとも知名度を活かしインフルエンサーという職業(稼ぎ方)が成立するようなものです。
また、ストリーミング放送で投げ銭(寄付)を受け取ることによって莫大な資金を得たり、コンテンツとして文化(またはサブカルチャー)を育む土壌が出来たこと自体がすでに純粋な貨幣経済の枠組みを超えてきたといえるのです。
条件がさらに整いはじめた
(略)
おそらく、こうした動きの向こうに、新たな方法が生まれてくる。
社会に存在する「多様な価値観」を、その多様性を損ねることなく、多様な視点から評価していくという方法が、生まれてくる。(略)
インターネットの世界には、「多様性の文化」が刻まれており、「貨幣による評価」や「定量的尺度による評価」といった「単純化」は、その文化と馴染まないのである。
ロングテール。いまインターネットの世界で常識的な視点のひとつがロングテールです。これはアクセスの統計を取っていくと、いわゆる「売れ筋」よりも「死に筋」の総量のほうが売れ筋よりも多くなることから、グラフが恐竜のしっぽ(ロングなテール)のようになることから、米『Wired』誌の記事で同紙編集長であるクリス・アンダーソンが提唱したものです。
たとえば、このロングテール戦略はユーチューバーの動画のストックでも同じことが考えられるのです。誰が見るかわからないような「つまらないもの」「くだらないもの」であっても世界中の誰かが見ることによって、その数の総和が普通のテレビ番組よりも視聴者数が上回る可能性があるのです(しかも動画はストック型のコンテンツです!)
このあたりは、データ送受信の簡易さやPC・スマホなどデバイスの高性能さや低価格さによって普及が実現し、そしてさらにこの潮流はスピードを衰えることなく広まっているのです。
他にも
田坂先生はやさしい語り口のなかにも自身や周囲に厳しい「真剣さ」を持ち合わせています。
私は田坂塾にも参加するほど薫陶を受けているのですが、まだまだ未熟で氏の言葉をひとつひとつ噛み締めながら仕事に向かい合っています。
書店で見かけたら無条件に購入対象になる人物のひとりです。
さいごに
世界的な経済の潮流を検証するかのような本書は、その予見した根拠を知ることで敷衍して考える視点が得られます。
さらに近未来を生きる私たちには、潮流を知ることで間違ったこだわりやいらない不安を抱く必要がなくなるのではないでしょうか。
田坂先生の著書は数多くあるので、興味のあるものから読み始めていただければ教養として高い満足を得られるのではないでしょうか。そのように思い今回のご紹介となります。
また、田坂先生が紹介するようにヘーゲルなど哲学者を知るきっかけとして興味深い書籍だと思います。(私も田坂先生の影響でヘーゲルの考えに触れました)
マツモト コウイチ
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