先日、地元で鍼灸師として講演をする機会をいただきました。
そのなかで、かなり漢字のお話しをしました。最後に質問を受けるときに「血」という文字は「お皿」に関係があるのですか?と問われ、あいにく調べてない状態だったので、宿題としてお許しをいただきました。今回はその回答となります。
漢字は楽しいよね
質問は山のよう
講演をするときに、東洋医学というより東亜医学(漢字文化圏の医学)と言ったほうが本質的には正しいと思っています。
それでも日本人の認識は「東洋=漢字文化圏」ですから、便宜的に東洋医学と言っていることが多いです。本心は東亜医学といったほうが的を射た意味でしょう。
漢字は古代中国人の考え方を色濃く反映しています。当時の文化、価値観、風習などから連想された文字が多いのです。
講演のおわりに
私は講演をする機会をいただくと、必ず質問を受ける時間を設けさせていただいています。質疑応答によって、会場の聴衆の考えを汲んで少しでも意義ある時間にするためです。
そして、毎度のことなのですが、質問は最初は少ないものです。講演終了の時間が差し迫ると白熱してたくさんのご質問を受けるようになるのですが…。
その質問が白熱するまでは、私は余談をご紹介します。
なかでも、漢字について説明することが多くあります。このブログでも漢字に触れた話題(カテゴリーや記事)が多いと思います。
自分が感動した漢字
利益の「益」という文字があります。
これは、下に「皿」という文字を書きます。
そして、上になにか乗っている姿を表しています。さて、上に乗っているものとはなんでしょう???
すぐには、わからにかもしれませんね。これ、90度回転させてください。「水」という文字に見えませんか?
実は、お皿に乗っているものは「水」だったのです。人類によって貴重な水というものがお皿に乗って提供されている姿、これが利益の「益」なのです。
私は、この文字の成り立ちを知ったときに、まさかそういう姿が隠れているのかと、とても関心したことを覚えています。
さらに、感動はここで終わりません。
お皿の上に水がある姿が「益」。
これに水を表す「氵(さんずい)」が付いたらどうなるでしょう?そうです。「溢(あふ)れる」という文字になります。
水の入ったお皿に水を追加するのですから、溢れるわけですよね。
表記として、音だけではなく、意味まで含むという表音表意文字である漢字は、その意味や成り立ちを調べるのが本当に楽しくなる古代からのメッセージだと思っています。
(老後は漢字研究に一生を捧げようと今から思っている次第です)
そこで質問
講演の終わりに質問を受けました。
「お皿に爪がついてなぜ血なのでしょう?」
この投稿の理由となった宿題をこの時点でいただき、その場はお許しをいただきました。以後、その解説となります。
斎宮忌詞(さいぐうのいみことば;いわゆるスラング・不浄な言葉を避けるために用意した言葉)に血のことを「あせ」という。意味としては体液全般を指す言葉と言われています。
たしかに鍼灸でいう気血(きけつ)の血(けつ)も汗も涙も含みますからね。
血は象形文字だといいます。ですので、質問者が爪と称した「’」は、皿の受けにある血液だというのです。
古代日本では血を忌むべきものとしたのですが、もと牧畜族であった古代中国では肉食を常として、神にも血祭し(※1)、神前に誓うときにも血盟を行ったとされています。
※1血祭(ちまつり)…古代中国で出陣の際、いけにえを殺してその血で軍神を祭ること。
それだけ、古代中国人は血と関係が近かったのですね。
皿は純粋に底の浅い器であって、この場合は神様に備えるために使った器です。
血をお供えする(生贄)というのは、現代ではちょっと考えが及びませんが、古代ではそのような文化・風習があったのですから、文字に反映されていても不思議ではありません。
さいごに
やはり漢字は古代中国の文化・風習を色濃く反映しています。戦争、神事、男の仕事、女の仕事、また姿形や気象などです。
今回も結果的には血祭という古代の文化と関係がありました。
言われてみれば不思議ではないのですが現代の感覚ではすぐにつながらないですね。
漢字はすべてが見たままの象形文字から発生したものではありません。意味を汲んだ会意文字や音だけ借りる形声文字などがあります。
それでも、なんらかのメッセージを汲み取ることができる漢字の面白さに、良い機会ですからぜひ惹き込まれてみるのも良いのではないでしょうか。
マツモト コウイチ
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